保育所における腸管出血性大腸菌O157集団感染事例、2008年―大阪府
(Vol. 30 p. 77-78: 2009年3月号)

2008年7月30日に大阪府和泉保健所に和泉市内の医療機関より、7月24日発症の1歳女児Aから腸管出血性大腸菌(EHEC)O157(VT2産生)が検出されたとの届出があった。Aが和泉保健所管内の保育所へ通所していたことから、園児および職員の健康調査と関係者の検便を実施したところ、園児やその家族、職員の計17人からEHEC O157(VT2産生)が分離され、大阪府(大阪市、堺市、高槻市および東大阪市は除く)では7年ぶりの集団感染事例となった。医療機関や大阪府泉佐野保健所で分離された菌株について疫学解析を行ったので、事例の概要とあわせて報告する。

感染者調査:当初調査対象となったのは園児(Aを含めて24人)および職員(8人)で、7月19日に3歳女児2人が下痢を呈しており、7月22日〜8月5日にかけて0歳〜3歳の園児14人(Aを含む)と職員1人が下痢、腹痛などを発症していた。8月6日までに園児7人(Aを含む)、園児の家族1人、職員3人の計11人の感染が判明し、8月7日〜22日まで閉園することになった。さらに、8月8日に別の医療機関から届出のあった4歳女児Bが、7月29日のみ当該保育所の一時保育を利用していたことがわかり、調査対象を7月19日〜8月6日に一時保育を利用した33人と同期間の臨時職員3人まで拡大した。その結果、新たな感染者が明らかになり、8月15日までに園児10人(Aを含む)、園児の家族2人、職員3人、一時保育利用者3人(Bとその弟を含む)の合計18人のEHEC感染が確認された()。有症者の症状は比較的軽く、Bは血便がみられたが、他の患者は水様性下痢であった。

疫学マーカー解析:本事例で分離されたEHECはいずれも血清型はO157:H7、VT2産生性で、センシ・ディスク(BD)を用いた薬剤感受性試験では、ホスホマイシンを含む12種類の薬剤に感受性を示した。パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)は制限酵素Xba Iを用い、1人1株ずつ実施したところ、園児Aを含む13人の泳動パターンは一致したが、4人(C、D、E、F)は1バンド、増菌培養で検出された園児1人(G)は2バンド異なるパターンを示した()。この5人は複数のコロニーを釣菌し保存していたため、菌株を追加して解析したところ、全員Aと同じパターンを示す株が確認され、18人の分離株は同一起源であると判断された。

感染源調査と考察:給食18検体、調理室のふきとり7検体の培養検査を実施したが、EHECは分離されなかった。推定初発園児の発症前1週間にあたる7月12〜18日の給食を調べることができなかったが、有症者の発症日にピークがないことから、給食が原因である可能性は低く、感染者から直接あるいは汚染された環境(タオルやおもちゃなど)を介して感染が広がったと考えられた。本事例では、帰省シーズンに重なったことや一時保育利用者への連絡が難しく実態把握に時間がかかったことから、調査対象者の検便実施に26日間かかったうえ、一時保育利用者と接触者の計8人は協力が得られなかった。保育所側にEHECや感染予防についての知識が不足していたことも感染拡大の一因であったと推察されたため、保健所は保育所に対し指導を徹底し改善を求めた。

菌株の提供にご協力いただいた医療機関、検査機関に感謝いたします。

大阪府立公衆衛生研究所
勢戸和子 田口真澄 原田哲也 川津健太郎 神吉政史 依田知子 井上 清
大阪府和泉保健所
柴田敏之 萩原粒子 山本サヱコ 中田栄子
大阪府泉佐野保健所生活衛生室検査課
長澤登美代 伊吹てるみ 濱石裕紀

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