横浜市内でのエンテロウイルス71型の検出状況
(Vol. 30 p. 72-73: 2009年3月号)

2008年9〜12月に横浜市の感染症発生動向調査における手足口病とヘルパンギーナの患者検体から分離・同定された4例のエンテロウイルス71型(EV71)について報告する。

2008年横浜市内の病原体定点医療機関から搬入された手足口病の患者検体は、10月をピークに6〜12月までに26検体(咽頭ぬぐい液)で、主病因ウイルスとして18検体からコクサッキーウイルスA(CA)16型が同定されたが、3検体はEV71であった。同じくヘルパンギーナについては、6〜9月までに10検体(咽頭ぬぐい液)が搬入され、主病因ウイルスとしてCA5とCA6が同定されたが、1検体はEV71であった。

EV71と同定した4検体は、いずれもVero細胞でウイルスが分離され、国立感染症研究所から分与されたEV71の抗BrCr血清により確認したが、1例はやや難中和株であった。なお、EV71の抗C7血清には4例とも中和が成立しなかった。

分離株の遺伝子解析には、VP1領域を標的としたRT-PCRを実施し、分子系統樹解析および相同性検索を行った1-3)。分子系統樹解析の結果、遺伝子型(genogroup)は、B5型が1例、C2型が3例であった。約700bpにおける塩基配列の相同性検索は、B5型は2006〜2007年に台湾で流行した株と 98%の相同性がみられ、C2型はいずれも2008年にシンガポールから報告された株と99%の相同性を示した。C2型は、3例とも1歳〜2歳の患者由来のもので、そのうちの2例は、手足口病の流行時期を外れた集団発生事例であった。患者情報の詳細とEV71のgenogroupは(表1)に示す。一方、横浜市内で、2005〜2007年に同定されたEV71のgenogroupは、9例中7例がC4型であった。これらから、2008年にEV71による感染症の主要な流行株が、C4型からC2型に変化したことが推察された。

当所では、断続的ではあるが、2008年の年末までEV71以外にもエンテロウイルスが検出されており、2009年1月になっても手足口病の検体が搬入され、現在検査中である。ここ数年の当所におけるEV71分離検出数は、エンテロウイルス全体の1割未満であり、すべて軽症例で、そのほとんどが発熱を伴わない口内炎や発疹のみの患者であった。しかしながら、過去に日本を含む東アジア地域ではEV71による重症例および死亡例が報告されており、EV71感染症に対するサーベイランスは重要である4) 。

 文 献
1)Oberste MS, et al ., J Clin Microbiol 38: 1170-1174, 2000
2)Brown BA, et al ., J Virol 73: 9969-9975, 1999
3)Singh S, et al ., J Virol Methods 88: 193-204, 2000
4)清水博之, IASR 30: 9-10, 2009

横浜市衛生研究所検査研究課 百木智子 七種美和子 川上千春 池淵 守

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