WHOヨーロッパ地域における麻疹排除への進展、2005〜2008年
(Vol. 30 p. 109, p. 112: 2009年4月号)

2002年、WHOヨーロッパ事務局は、2010年の麻疹と風疹の同地域からの排除を、ワクチンの定期および追加接種をうまく組み合わせること、および強固なサーベイランスを用いて達成することを目標に掲げた。

この目標達成には、麻疹ワクチンの2回接種と風疹ワクチンの少なくとも1回接種に関して95%を超える高い接種率を達成し、維持することが条件と考えられ、そのために質の高い定期接種プログラム、補足的ワクチン接種活動(Supplementary Immunization Activities:SIAs)と呼ばれる追加接種の機会の提供、そして厳格な事例調査や検査室診断に基づいたサーベイランスが用いられた。その結果、2007年と2008年には同地区麻疹罹患率が史上最低の100万人当たり10例以下となり、12〜23カ月児の麻疹含有ワクチン(MCV)の1回接種率は93〜94%を達成した。しかし、目標を達成するには2つの壁があった。ひとつは多くの国では不完全な接種率のため感受性のあるグループが残り、アウトブレイクが継続し、麻疹の再興とヨーロッパ地域外からの麻疹の輸入という事態を招いたという点で、もうひとつの壁は2008年東欧諸国でのSIAsの頓挫があったということである。これらの壁を乗り越えて、2010年麻疹排除という目標を達成するには、やはり高いワクチン接種率の達成と維持、アウトブレイクの効果的な予防と介入、強固なサーベイランスが必要となる。

WER編集部評:WHOヨーロッパ地域では史上最低の麻疹罹患率を達成したが、特に東欧諸国では過去の不十分な予防接種政策により生じた若い成人世代の感受性者グループの存在と医療機関へのアクセスの問題から麻疹のアウトブレイクは継続的に起こっている。東欧諸国に関してはMCVの接種率の向上とSIAsの導入の成功で患者数は減っているものの、西欧諸国では十分な高接種率を保てていないためにアウトブレイクが起こっており、他地域へ麻疹ウイルスを輸出する結果となっている。さらに、西欧諸国では宗教的、信念などを理由としてワクチン接種を拒んだり、メディアや反ワクチン団体から流れるワクチンに対するネガティブな情報に影響を受け、子供にワクチンを接種しなかったり、正しい時期に接種しない親の存在が問題となっている。この影響により生じたワクチン未接種の集団が最近起こる麻疹の温床となっている。

もし本当に2010年に麻疹を排除したいのであれば、MCVの高接種率の維持と成人層へのSIAs導入のために、高いレベルでの政治的決断が必要である。さらに、一般市民や医療従事者、ワクチンに疑問を持つ親へのワクチン接種やワクチンによる副作用などについての教育も必要である。また排除に向けてサーベイランスは不可欠であり、WHOの提唱するサーベイランスガイドラインを使って強化していくべきである。また、アウトブレイクが起こった際には国際保健規則(IHR)を使って近隣諸国へいち早く連絡し、さらなる感染の拡大を防ぐべきである。

(WHO, WER, 84, No.8, 57-64, 2009)

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