知的障害者施設における赤痢集団感染事例―埼玉県
(Vol. 30 p. 99-100: 2009年4月号)

埼玉県内の重度知的障害者施設において、2007年4〜12月にかけて、55名の赤痢菌患者の集団感染が発生し、その終息までに長期を要した事例を報告する。

概 要
当該施設は、障害児施設、更正施設、授産施設の3種の施設で構成される重度知的障害者施設である。入所者定数は、総計450名で、同一敷地内の5つの寮(A、B、C、D、E)で生活している大規模集団生活施設である。

2007年4月9日、県内医療機関から保健所に「入所者等20名程度が下痢・発熱で受診」の報告があり、保健所が調査を開始した。

4月13日、A寮入所者6名から赤痢菌(Shigella sonnei )が検出され、細菌性赤痢患者発生の届出があった。その後、A寮入所者49名中12名、職員2名の計14名の便から、赤痢菌が検出された。5月11日に患者・接触者全員の陰性を確認し、終息を迎えたかにみえた。

しかし、5月27日〜6月4日にかけ、隣接のC寮入所者100名中13名、職員29名中4名が下痢または発熱を訴え、6月4日赤痢患者の届出があった。同月10日にB寮、11日には4月に患者発生のあったA寮からも再度患者が発生した。

以降、6月:27名(A寮10名、B寮8名、C寮9名)、7月:3名(A寮2名、B寮1名)、8月:17名(A寮17名)、10月:1名(A寮1名)であり、患者総数は計48名(A寮30名、B寮9名、C寮9名)となった(表1)。

4〜12月の終息までの検便の結果は、A寮からの菌検出者35名(入所者49名、菌陽性率:71%)。B寮9名(入所者101名、8.9%)、C寮9名(入所者100名、9.0%)、職員2名の計55名から赤痢菌が検出された。4〜5月と6月以降の両方での菌検出者は、7名であった。検便は、4〜5月は148件、6月以降は、12月までに3,673件、最終的に3,821件(延べ76回)の便検査を実施した(表2)。環境(ふきとり)、食品・水からは、赤痢菌は検出されなかった。分離菌は、総計70株で、すべてS. sonnei で、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)では同一パターンを示した。薬剤感受性は、当所で実施の12薬剤の検討(disk法)で、全株SM(streptomycin)、TC(tetracycline)、NA(nalidixic acid)、ST(sulfamethoxazole-trimethoprim)の4剤に耐性を示すパターンであった。4月の初発患者発生から12月の終息まで、8カ月の長期にわたる集団発生事例であった。

対 策
保健所は、施設管理者、医療機関、本庁管轄課(疾病対策課、障害福祉課)、衛生研究所を含めた「細菌性赤痢対策委員会」を設置して対策を協議した。とくに感染が拡大傾向にあることから、A)入所者、職員の一斉検便、B)菌陽性者の寮(患者をはじめ入所者全員)を対象とした入所者への一斉投薬、C)陰性確認期間の延長:従来の「抗菌薬の服薬中止後48時間以上経過した後に24時間以上の間隔を置いた連続2回の検便によって、いずれも病原体が検出されないこと」という陰性確認期間に加え、1週間後・半月後・1カ月後を追加、実施した。また、感染対策を患者個人ではなく施設全体を対象とし、一元管理とした。

まとめ
今回の集団発生では、感染源・感染経路の特定はできなかった。本事例は、大規模知的障害者施設で発生した細菌性赤痢集団感染であり、外部との交流が比較的少ないにもかかわらず、終息に長期を要した事例である。

感染拡大、長期化の要因は、入所者間相互での感染が繰り返されていたことと考えられる。当初の発生で実施していた従来の陰性確認の方法だけでは、施設内の相互の感染を検知することができず、2度目の発生をみたものと思われる。このため、陰性確認のための期間延長と施設全員の検便、一斉投薬など、個別ではなく施設を全体管理していく手法に切り替えたことで、終息を迎えることができた。

このような施設内集団発生では、個別的な対応が難しいことから、その生活形態に応じた総合的な感染対策(消毒指導、投薬方法、陰性確認)の実施が重要である。さらに長期化の場合、現場で持続可能な具体的対策を講じる必要がある。

埼玉県衛生研究所
埼玉県坂戸保健所

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