2008年の百日咳流行におけるパラ百日咳菌と百日咳菌の検出状況
(Vol. 30 p. 100-101: 2009年4月号)

近年、わが国では成人の百日咳患者が増加傾向にあり、2008年の百日咳患者は過去10年間で最多の報告数を示した(IDWR, 2009年3週号)。百日咳は百日咳菌(Bordetella pertussis )の気道感染によって引き起こされるが、その他の起因菌としてパラ百日咳菌(B. parapertussis )が挙げられる。パラ百日咳菌は百日咳菌に比較してその症状は軽いとされるが、臨床症状から両菌を鑑別することは不可能である。また、パラ百日咳菌の感染を現行の血清学的検査から診断することは困難とされ、百日咳流行とパラ百日咳菌の関係については不明な点が多く残されている。そこで、近年の百日咳流行におけるパラ百日咳菌の関与を考察するため、2008年の百日咳様患者に対しパラ百日咳菌と百日咳菌の遺伝子検査を実施した。

検査材料は2008年に遺伝子検査を目的に当室に搬入された百日咳疑い患者(小児・成人)の鼻腔スワブ(316検体)を用いた。国内の4医療機関(A〜D)において採取された患者検体は当室に搬入後、DNA画分を精製した。百日咳菌の検出はLAMP法により実施し、パラ百日咳菌の検出は挿入配列(IS1001 )を標的にしたリアルタイムPCR により行った(カットオフ値、Ct=35)。

百日咳LAMP検査では316検体中98検体(31%)が陽性を示し、その陽性率は施設Aが37%、施設Bが0%、施設Cが17%、施設Dが14%であった(表1)。一方、パラ百日咳菌の陽性数は3検体(0.9%)であり、施設Aにのみ陽性例が認められた。パラ百日咳菌の陽性3例のうち、百日咳菌とパラ百日咳菌の重複感染が認められたのは1例であり、他の2例はパラ百日咳菌の単独感染の可能性が強く疑われた。

本調査により、2008年の百日咳流行にパラ百日咳菌の強い関与は認められず、その流行は主に百日咳菌に起因したことが指摘された。国外では百日咳様患者におけるパラ百日咳菌遺伝子の検出率は0〜4.7%とされ、本調査の陽性率は過去の報告と一致したことから、パラ百日咳菌が百日咳流行の原因菌となる可能性は低いと考察された。ただし、百日咳とパラ百日咳菌の関係はいまだ十分に理解されていないため、今後も定期的な調査が必要である。

国立感染症研究所細菌第二部第五室

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