2008/09シーズンに仙台市・山形市・福岡市の医療機関で採取された検体から分離されたインフルエンザウイルスの抗原性について(第2報)
(Vol. 30 p. 106-107: 2009年4月号)

前回の報告(第1報)でわれわれは、今シーズンの始まりから(2008年12月から)本(2009)年第4週までの仙台市、山形市、福岡市の医療機関から寄せられたインフルエンザ様患者の臨床検体から分離されたインフルエンザウイルスの抗原性がAH3、AH1亜型、B型ウイルスのすべてにおいてワクチン株と異なっている傾向が見られたことを報告した(IASR 30: 74-75, 2009)。この傾向が今流行期を通してのものになるか否かについては、多くの関係者が関心を持っていると思われるので、その後2月末までのデータも加えたまとめを、第2報として報告する。

分離状況:仙台市由来の検体では第1報後も流行は2009年2月中旬(第7週)までAH1亜型が分離株中最も多かったが、その後はB型の方が多くなり、福岡市由来では第6週でB型が突出するようになった。

以上の今シーズン2009年2月28日時点までの分離ウイルスの抗原性を、にまとめて示した。

なお、分離ウイルスに対する抗原性は、すべて国立感染症研究所分与の標準株(ワクチン株)に対するフェレット抗血清による赤血球凝集抑制(HI)試験 [0.75%(V/V)モルモット血球、V字プレート使用] の成績で表現している。

分離株の標準株抗血清との反応性
AH1亜型:前回の報告では、仙台市でも福岡市でもほとんどが標準株と2〜3管ずれており、中にはもっと大きくずれているものが見受けられたことを報告したが、この傾向は今流行期を通して同じであった。

AH3亜型:仙台、山形、福岡市由来の検体すべてで今流行期を通して散発的な分離となったが、抗原性に関しては、当初、福岡市由来の株で標準株とずれるものも散見されたものの、最終的には、ほぼ標準株に近いものが大勢を占めたようである。仙台市で見られた3管以上の抗原変異株についても、それらの出現時期に傾向はなく、散発的であった。

B型:第1報では、山形、福岡市という地理的に離れた地域での分離株が、それぞれきれいに山形系統とVictoria系統に分かれ、その両方で標準株との抗原性のずれがかなり大きい傾向があることを報告したが、その後、山形市由来の分離株のほとんどは、Victoria系統となった。また、結果的には、福岡市の分離53株のすべてと仙台市の68株分離中66株がVictoria系統であった。

それらの抗原性であるが、山形系統の変異の程度は小さく、標準株との差は、あっても2管であったが、一方でVictoria系統は、分離株のすべてが標準株と4〜5管の差があり、変異はかなり大きいようである。

考 察
われわれのHI試験による抗原解析では、今シーズン分離した株、特にB型とAH1亜型の一部に、標準株との大きな差が認められたが、HI価に関しては試験を実施するラボ間の差は、ないとはいえない。関係する要素としては、人的要素として1)とくに陽性と陰性の間の微妙な部分での判定のとり方を含む、判定者の目、2)前述1)を含む抗原の調整、物的なものとして3)用いるプレートがV字かU字か、4)モルモット血球か七面鳥血球か、あるいは5)それらの血球のロットである。たとえば最後に関して言えば、今シーズンは、感染研配布のAH1標準株に対する標準抗血清のホモ価が、同じモルモット血球でもロットによって1:640と1,280とにぶれていた。

よって、あるHI試験での、たとえば2管の差が、別の試験者によっては1管の差としか捉えられない場合があることは、データを読む上で常に承知しておくべきであり、必要な場合には、第三者による追試が必要であろう。ただ、それでも3管、4管、5管といった大きな差が認められるような場合には、ラボ間による程度の差はあれ、変異があるといった認識は必要であると思われる。

国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター
岡本道子 近江 彰 千葉ふみ子 伊藤洋子 西村秀一
同 小児科 貴田岡節子 田澤雄作、
同 呼吸器内科 斉藤若奈 三木 祐
永井小児科 永井幸夫、 庄司内科 庄司 眞(以上仙台市)
勝島小児科 勝島史夫(山形市)
しばおクリニック 芝尾京子、しんどう小児科 進藤静生、高崎小児科 高崎好生、
やました小児科 山下祐二(以上福岡市)

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