海外渡航歴のない細菌性赤痢患者の同時期の複数届出事例について―群馬県
(Vol. 30 p. 97-98: 2009年4月号)

2009(平成21)年1月10日〜2月5日に群馬県において、海外渡航歴がなく、感染地域が国内と推定された細菌性赤痢(Shigella sonnei II相)の感染症法に基づく届出が、隣接する2保健所管内の3家族から4例あったので、その概要を報告する。

1.患者情報
症例1〜4(家族A〜C)の患者情報を表1に示した。症例1と2は同居の家族(家族A)である。家族AとBの居住地は同じ保健所管内にあり、所在地間は約2kmであったが、家族間の交流はなかった。

症例1・症例2(家族A):症例1の届出時の保健所の患者調査において、同居家族のうち1名(症例2)は水様下痢、血便、頭痛があり既に入院していたことが判明した。同居家族の他の3名も下痢等の症状があったが、すでに医療機関へ受診しており、抗菌薬等を服薬していた。保健所で実施した家族3名の2回の検便(1回目:1月30日直接採便、2回目:2月3〜5日糞便)の検査はすべて赤痢菌陰性であった。家族Aでの主な調理担当者は症例2であり、また、発症日から推定すると症例2が初発になり、他の家族が感染し発症したと推定された。症例1は一時重症化したが、その後軽快・退院となっている。

症例3(家族B):症例3の患者調査では、同居家族(3名)は症状もなく、検便の結果、赤痢菌は陰性であった。

症例4(家族C):症例4は潜伏期間および発症中に国内旅行をしていたため、同行者(4名)および家族(8名)を接触者として患者調査を実施した。調査対象者はすべて無症状で、検便の結果は赤痢菌は陰性であった。同居家族の2名が発症前1カ月以内に海外渡航歴(ペルー)があったが、帰国時から症状はなく、検便の結果、赤痢菌は陰性であった。

2.病原体検査
分離株は、生化学的・血清学的性状検査、KB法による1濃度ディスク法(ベクトンディキンソン社)薬剤感受性検査(ABPC、PIPC、CMZ、SM、KM、GM、TC、CP、FOM、NA、OFLX、ST)、PCR法による組織侵入遺伝子(inv Eとipa H)の保有の有無、および制限酵素Xba Iによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による分子疫学解析を実施した。

分離菌株はいずれも赤痢菌(S. sonnei II相)と同定され、症例1、2(家族A)および症例3(家族B)由来株はSM、TC、NA、STに耐性を示し、薬剤耐性パターンが一致していた(表2)。症例4(家族C)由来株はABPC、SM、TC、CP、STに耐性を示していた。組織侵入遺伝子のうちipa Hは症例1〜4由来株のすべてが保有していたが、inv Eは症例2由来株は保有していなかった(表2)。PFGEの結果では、症例2はバンド1本異なっていたが、症例1、2および3は、PFGE解析上、ほぼ同じ遺伝子切断パターンであり、感染源が同一である可能性が示唆された。症例4由来株は他の症例と明らかに異なる遺伝子切断パターンを示していた(図1)。

3.まとめ
今回、群馬県内でほぼ同一時期に海外渡航歴のない細菌性赤痢患者が3家族から報告された。両家族・患者の喫食状況、行動、飲食店、購入店等の疫学調査から明確な関連は見出せず、感染原因・感染経路を推定できなかった。しかし、2家族(家族AとB)から分離された赤痢菌は薬剤感受性パターンおよびPFGE解析結果から同一感染源である可能性が示唆されたことから、赤痢菌で汚染された共通食材等が感染源になっていた可能性もある。以上のことから、本事例は3症例を含む集団発生例(家族AとB)と散発例(家族C)が同時期に発生したことが推定された。今後、感染症サーベイランスシステムによる患者情報収集とともに個々の事例の病原体解析をより強化する必要性があろう。

群馬県衛生環境研究所
塩原正枝 黒澤 肇 鈴木智之 長井綾子 森田幸雄 小畑 敏 加藤政彦 小澤邦壽
前橋保健福祉事務所 田村直子 赤見まり子 中村多美子 宗行 彪
渋川保健福祉事務所 高橋ふさ子 山ア 稔 水上憲一
国立感染症研究所感染症情報センター第六室 木村博一

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る