2008年に人から広域に分離された腸管出血性大腸菌O157のPFGEパターンのクラスター解析
(Vol. 30 p. 124-125: 2009年5月号)

国立感染症研究所細菌第一部に送付され解析を行った2008年分離のヒト由来腸管出血性大腸菌(EHEC)は2,405株あり、そのうちO157は1,729株、O26は421株であった(2009年2月現在)。

2008年にはXba I によるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンがO157で850種類(Type No.d1〜d761およびその他)見られ、少なくとも3つ以上の異なる都道府県から分離された同一PFGEパターンが45種類あった。このうち、7つ以上の都道府県から分離されたO157には10種類の泳動パターンがあり、特に多くの都道府県(11〜23カ所)から分離されたパターンとして、Type No.(TN) c47、c57、c293、d92、d148の5種類があった(図1)。TN c47、c57、c293は2007年に引き続いて分離されているパターンであり、TN d92、d148は2008年に初めて分離されたパターンであるが、これらの株についてBln I によるPFGEパターンを比較しても、それぞれのパターンにおける変異型はほとんど見られなかった。それぞれのパターンを示す株の分離期間は、TN d148が3カ月であったものの、その他は5〜9カ月の長期にわたって各地から分離されていた。

これらの株についてMultiple-locus variable-number tandem repeat analysis (MLVA)法により9種類の遺伝子座について調べると、複数の遺伝子座でリピート数が異なる株があったことから、その遺伝学的な多様性が示唆された。MLVAタイプ間の関連性をMinimum Spanning Treeで図2に示す(円の大きさは分離株数に基づき、距離は変異の度合を反映する)。TN d92およびd148を示す株の大部分はリピート数の一致する株(大円で表示)であるが、TN c47、c57、c293を示す株ではリピート数が少しずつ異なっている株(変異株;枝分かれした小中円で表示)が集合して構成されていることがわかる。TN c57についてはリピート数の一致した株が比較的多いが、特にTN c293の株では、多数の変異株が集合しており、多様な遺伝子型の株が含まれていることが示唆された。2008年に23都府県の広域から分離されたTN d148の株ではMLVAでも遺伝子型が一致する株が8割(45/56株)あり、集団発生由来株で報告されているわずかなリピート数の変異、すなわち、1遺伝子座について繰返し数が一つ(SLV1)異なる変異株が5株あった(表1、B〜D型)ことから、TN d148を示す56株中50株については遺伝子構成が極めて類似し、関連性が高いことが示唆された。

分離地が異なっていても発生時期が近い株では共通の感染源が存在することを示唆すると考えられ、それぞれのタイプにおける感染源が共通のものであるか否かについては不明ではあるが、これらの分離株により未確認の集団発生(unrecognized outbreak)が形成されている可能性は十分考えられる。このような広域に及ぶ事例を早期に探知して、その拡大を防ぐとともに、原因究明に向けた対策が重要である。

国立感染症研究所細菌第一部
寺嶋 淳 泉谷秀昌 伊豫田 淳 三戸部治郎 石原朋子 渡邉治雄

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