保育所で発生した腸管出血性大腸菌O157による集団感染事例−大分県
(Vol. 30 p. 125-126: 2009年5月号)

2008年3月にA保健所管内のB保育所(園児74名、職員15名)において、腸管出血性大腸菌(EHEC)O157による集団感染事例が発生したので、その概要について報告する(表1)。

2008年3月19日、A市内の医療機関から4歳と1歳の兄弟の下痢便よりEHEC O157:H- (VT1&2)が検出された旨、管轄保健所に連絡があった。調査の結果、3月11日にEHEC O157:H-(VT1&2)が検出された3歳の男児と同じB保育所に通園していることが判明したため、全園児、全職員およびEHECが検出された園児の家族等を対象に検便を実施することとした(図1)。

最終的に、園児66名、職員15名、園児の家族14名、計95名について検便を実施し、医療機関からの届出例を含め、園児7名および園児の家族3名、計10名からEHEC O157:H-(VT1&2)が検出された(図2)。菌陽性者10名のうち、有症者は医療機関を受診した園児3名のみで、残り7名は無症状病原体保有者であった。3名の症状は、いずれも軟便程度で、溶血性尿毒症症候群(HUS)などの重篤な症状は認められなかった。菌陽性者の年齢は、1歳が1名、2歳が1名、3歳が2名、4歳が1名、5歳が1名、6歳が1名、10歳が1名、13歳が1名、37歳が1名であった。菌陽性者10名のうち、7名は2家族[1歳(園児)と4歳(園児)の兄弟とその父親の「C家族」、3歳(園児)と5歳(園児)、10歳、13歳の4兄妹の「D家族」]で、とくに「D家族」は菌陽性となった全員に症状が認められなかった。

検査は分離培地にDHL、クロモアガーO157、CT-SMAC寒天培地、増菌培地としてTSB培地を使用し、分離・同定は定法に従い実施した。一方、検査の迅速化・省力化を図る目的で、糞便乳剤からリアルタイムPCRを行い、その有用性について検討した。糞便乳剤からの直接テンプレートを調製して行ったリアルタイムPCRの結果は陰性であったが、TSB培地の3時間〜18時間増菌培養液でリアルタイムPCRの結果が陽性となったものが2検体あった。しかし、この2検体から当該菌を分離することはできなかった。このうち1検体は抗菌薬投与中の糞便で、菌数が少ないか、もしくは損傷していた可能性も考えられたが、感度良く分離するためには、ビーズ集菌法を組み合わせるなどの工夫が必要であろう。

分離されたEHEC O157:H-(VT1&2)について、制限酵素Xba I を用いパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施した。その結果、本事例おいて分離された10株はよく似たパターンを示した(図3)。

疫学調査の結果、園児の発生状況や、園児と同じ給食を喫食している職員全員が検便で陰性であったことから、保育所内での人→人感染が推察されたが、感染源・感染経路については不明であった。また、菌陽性者10名のうち、7名は2家族からの検出であることから、保育所内の人→人感染に加えて、家族内の二次感染が強く推察された。さらに、本事例が発生した3月は、ウイルス性下痢症が多発する時期でもあり、症状が軽い場合、検査をすることもなく冬季に小児の間で流行するウイルス性下痢症として処理される可能性も否定できない。筆者らは、2009年2月にもEHEC O121:H19(VT2)による保育園の集団発生を経験した(未発表)。保育園などでは、ウイルス性下痢症が流行する冬季においても、これらのことを念頭におき、検査をすることが肝要である。

この事例報告にご協力をいただいた大分市保健所の関係者の方々に深謝いたします。

大分県衛生環境研究センター微生物担当
緒方喜久代 若松正人 成松浩志 小河正雄 渕 祐一(現薬務室)

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