保育所で発生した腸管出血性大腸菌O26集団感染事例―富山県
(Vol. 30 p. 126-127: 2009年5月号)

2008(平成20)年6月〜8月にかけて、富山県Y市の保育所において腸管出血性大腸菌O26:H11 VT1(以下O26)による集団感染事例(感染者34名、うち園児30名、家族等接触者4名)が発生したのでその概要を報告する。本事例では一度は菌陰性が確認されたにもかかわらず、再度菌が検出された再陽性者3名、2度目の検便で新たに菌陽性化となった1名が報告され、初発届出から最終陰性確認まで52日間を要した。

2008(平成20)年6月24日、県内医療機関から、3歳保育園児のO26による感染症発生届が提出された。患児の通うA保育園関係者(園児、職員、家族)について接触者検便を実施した結果、園児18名、園児家族4名からO26が検出された(表1)。また、7月14日、上記医療機関からA保育園に通う1歳患児について新たに届出が提出された(この患児は6月24日の届出に伴う接触者検便では陰性が確認されていた)。接触者検便の結果、園児11名のO26感染が判明した。その後7月29日に感染者全員の菌陰性化が確認された。

さらに8月4日に再度A保育園園児・職員の菌陰性化確認目的の検便を実施したところ、2歳園児についてO26が検出された。この患児は7月14日の届出に伴う接触者検便でO26感染が判明し、29日に菌陰性化が確認されていた。8月15日にこの患児の菌陰性が確認され、また、その後新たな発症者がみられないことから、A保育園におけるO26集団感染の終息を確認した。

感染者34名についてその分離菌株のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析を行った結果、O26分離菌34株は6つのパターンに分類された(図1)。最も多かったパターン5は34株中24株を占めていた。パターン5とバンド数の異なるパターン1〜4、6を示した菌株は34株中10株(29%)であった。

本事例では感染が確認され、治療・菌陰性化後、再度菌が検出された園児が3名報告された。その原因として抗菌薬に対する耐性を疑い、これらの患児より分離された株について薬剤感受性試験(NFLX、OFLX、NA、KM、GM、FOM、ABPC、ST、TC、CL、CEZ、CP)をディスク法により行った。しかし、薬剤耐性は認められなかった。PFGE解析では、この再陽性者のうち2名からは治療前と同一PFGEパターンの株が検出された。しかし、残りの1名からは治療前はパターン2の株が、治療後はパターン3の株が検出された。この1名の場合、治療の前後で異なるパターンの株が検出された理由として、別のパターン株に感染した可能性、あるいは初回感染菌が感染者の腸内から完全に排除されず、変異した形で排出された可能性等が考えられた。本事例を含め、O26集団感染事例では感染者の除菌が困難である場合や、探知直後の検便では陰性であったが、その後新たに新規感染が確認される例が多く報告されている(IASR 26: 308, 2005、IASR 28: 14-15, 2007)。

本事例では有症者は8名(全感染者の24%)であり、すべて保育園児であった。感染者の約76%が接触者検便によって感染が判明した無症状病原体保有者であり、初発探知時には既に感染が拡大していたと考えられる。また、保育所の給食や環境調査からはO26は検出されず、感染源・感染経路を特定することはできなかった。しかし、初発探知時における最初の接触者調査の結果、互いにトイレを共用していた園児2クラスに感染者が集中していた(表1、クラスCおよびクラスD)ことから、トイレを介した保育所内の人→人感染が推察された。

管轄厚生センターはA保育園に対して給食調理の自粛、有症者および感染者の登園自粛、手洗い消毒設備の整備と、職員と園児の手洗い消毒の徹底などについて指導し、感染者宅には個々に訪問指導を行った。また、Y市と連携し、市内全保育所・幼稚園に対する感染症予防研修会を行い、衛生管理の徹底を指導した。

富山県衛生研究所細菌部
木全恵子 嶋 智子 清水美和子 金谷潤一 磯部順子 倉田 毅 綿引正則
富山県高岡厚生センター
山崎慎一郎 溝口豊明 竹内智子 齊藤尚仁* 石川 宏(*現県衛生研究所)

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