2008年9月に、医療機関より県央保健所等へ、腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症(O26、VT1)の発生届が複数件あった。それらの患者は、いずれも県央保健所管内のA幼稚園(園児数198名、職員数19名)またはB幼稚園(園児数68名、職員数11名)の園児等であったことから、県央保健所は、両幼稚園に対して衛生指導等を行うとともに、疫学調査を実施した。園児等の検査は、環境保健研究センターにおいて行われた。
A幼稚園については、園児181名、職員19名、園児家族124名およびその他関係者46名の検査を行い、園児51名、職員1名、園児家族7名からEHEC O26:H11(VT1)が分離された。これらの検査陽性者とは別に、園児9名、園児家族3名およびその他関係者2名について、医療機関よりEHEC感染症(O26、VT1)の届出があり、O26陽性者の合計は73名で、有症者は22名、無症状病原体保有者は51名であった。
B幼稚園については、園児62名、職員11名、園児家族17名およびその他関係者4名の検査を行い、園児4名からEHEC O26:H11(VT1)が検出された。これらの検査陽性者とは別に、園児4名、園児家族3名について、医療機関よりEHEC感染症(O26、VT1)の届出があり、O26陽性者の合計は11名で、有症者は7名、無症状病原体保有者は4名であった。
両幼稚園におけるO26陽性の有症者の発症日は、8月27日〜9月10日であり(図1)、その症状は、水様性下痢(軟便を含む)が26名、腹痛が16名のほか、発熱や嘔吐を呈する者が数名いたが、溶血性尿毒症症候群(HUS)等の重症者はいなかった。
当センターで分離された63株および医療機関より提供された19株の計82株中77株(A幼稚園66株、B幼稚園11株)について、PFGEによる遺伝子解析を実施したところ、10パターンに区別され、59株(A幼稚園53株、B幼稚園6株)が同一のパターンを示した(図2、表)。これら10パターンのクラスター解析による類似度は、約92%で、両幼稚園に共通して認められたのは3パターン、A幼稚園のみに認められたのは6パターン、B幼稚園のみに認められたのは1パターンであった。
また、82株について、KB法によりABPC、CTX、KM、GM、SM、TC、CP、CPFX、NA、FOM、STの11種の薬剤感受性試験を行ったところ、11株がABPCに対して耐性を示し、残りはすべて感受性であった。
両幼稚園で、共通のPFGEパターンが認められたことから、共通の感染源・感染経路の存在が疑われた。両幼稚園では、8月27日および29日に共通の仕出し屋を利用していたが、8月27日には既に初発患者が発症しており、また、仕出し屋の他の利用者から有症苦情等は無かった。他に、両幼稚園に共通した事項は認められず、感染源、感染経路は、不明であった。なお、2008年の岩手県内におけるEHEC O26(VT1)による事例数は、本事例以外に、散発事例、家族内事例等を合わせ14件あり、10件の分離株についてPFGEを行ったが、いずれも本事例のPFGEパターンとは異なっていた。
今回の事例では、家族内感染も複数あり、幼稚園や保育所等での集団感染時には、家族への二次感染の予防策の指導も重要と思われた。
岩手県環境保健研究センター
松舘宏樹 岩渕香織 高橋雅輝 高橋知子 蛇口哲夫 佐藤徳行 太田美香子
後藤 徹 佐藤耕二
岩手県県央保健所
三浦紀恵 金谷明美 高橋栄久子 森 隆司 稲葉洋子 白沢文康
小笠原三枝子 三井太平 三浦史人 畠山英樹 大内英雄 滝川義明 鈴木俊彦
盛岡市保健所
平 憲弥 吉田崇宣