腸管出血性大腸菌O145による集団感染事例―山形県
(Vol. 30 p. 130-131: 2009年5月号)

2008年の9月(事例1)と10月(事例2)に、山形県村山保健所管内で腸管出血性大腸菌(EHEC)O145による集団感染が発生したのでその概要を報告する。

事例1:2008年9月10日、管内の医療機関からEHEC O145:H- VT1の患者発生の届出があった。この患者は1歳の保育園児(表1:No.1)であった。当所では患者宅および保育園と連絡をとり、疫学調査と健康調査を行うとともに、感染拡大防止のため衛生指導および保菌者検索を実施した。

表1に事例1で確認された保菌者(初発患者を含む)を、表2に事例1の保菌者検索状況を示した。保育園(園児数98名、職員数28名)の健康調査で健康状況に異常が認められなかったため、対象を濃厚接触者に絞り、患者家族8名、患者(No.1)と同じ0歳児クラスの園児8名および保育園職員28名の合計44名の検便を実施した(9月11日〜17日)。その結果、患者家族4名(No.2、No.3、No.4、No.5)および園児1名(No.6)の合計5名の便からEHEC O145:H- VT1が分離された。さらに9月15日、16日に園児(No.6)の家族9名の検便を実施したが、全員陰性だった。

保菌者検索の結果をまとめると、9月11日〜17日にかけて53名の検便を行い、5名の保菌者が確認された。その後新たな患者発生は認められず、初発患者を含む保菌者6名も医療機関を受診し、治療後の検便で除菌が確認されたため、本事例は終息したと考えられた。

事例2:2008年10月6日、管内の医療機関からEHEC O145:H- VT1の患者発生の届出があった。この患者は5歳の幼稚園児(表3:No.7)であった。この幼稚園は、事例1の保育園と同一法人の経営で、幼稚園と保育園は同じ敷地内にあった。当所では患者宅と幼稚園において疫学調査、健康調査等を行い、あわせて保菌者検索を実施した。

表3に事例2で確認された保菌者(本事例の初発患者を含む)を、表4に事例2の保菌者検索状況を示した。幼稚園(園児数 253名、職員数32名)の健康状況に異常が認められなかったため、濃厚接触者と考えられる患者家族9名、患者(No.7)と同じ年中児クラスの園児27名および年中児クラス担当の保育士3名の合計39名を対象に検便を行った(10月7日〜9日)。その結果、患者家族1名(No.8)および園児1名(No.9)からEHEC O145:H- VT1が分離された。10月11日、17日にNo.9の家族4名の検便を実施したところ、2名(No.10、No.11)の便からEHEC O145:H- VT1が分離された。この2名はNo.9の兄弟で、No.10はこの幼稚園の年長児クラスの園児であり、No.11は保育園の0歳児クラスの園児であった。また、接触者であるNo.10と同クラスの園児25名、No.11と同クラスの園児9名および保育園の職員23名の合計57名の検便を10月16日、17日に行った。その結果、No.11と同じクラスの園児(No.12)からEHEC O145:H- VT1が分離された。No.12はNo.1と同じ園児、すなわち事例1の初発患者と同一患者であった。10月18日、20日にNo.12の家族7名の検便を実施したが、全員陰性だった。さらに、民間検査機関で実施した定期検便(10月20日採取の便)で、保育園の0歳児クラス担当の保育士1名(No.13)からEHEC O145:H- VT1が分離されたとの情報が当所に入った(No.13は、No.11の接触者として10月16日に検便を受けており、その時は陰性)。これを受けて、10月28日にNo.13の家族4名および再度保育園の0歳児クラスの園児9名の検便を実施したが、全員陰性だった。

保菌者検索の結果をまとめると、10月7日〜28日にかけて120名の検便を行い、民間検査機関で判明した1名を含む6名の保菌者が確認された。その後新たな患者発生を認めなかったことから、本事例は終息したものと考えられた。

考察とまとめ
データは示さなかったが、2つの事例で分離された13株のEHEC O145:H- VT1は、県衛生研究所で行ったパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析ですべて同一パターンを示した。このことから事例1と事例2は同一由来の菌による集団感染であることが示唆された。当初、この菌が保育園から幼稚園に持ち込まれ、事例2が発生したものと推測された。しかし、保育園と幼稚園は同一敷地内にあるが、園舎は独立しており、共有スペースや職員同士の行き来もなく、接点が見出せなかった。疫学調査結果や喫食状況調査結果等を検討したが、最終的に感染源および感染経路を究明することはできなかった。また、事例1の初発患者(No.1)が事例2でNo.12として届出された。このことは、再燃もしくは再感染なのか不明であった。No.13はNo.11およびNo.12のおむつ交換をしており、その時に感染を受けた可能性がある。これらの事例では家族内感染と考えられる例が多く認められたが、幸い保育施設内での大規模な集団発生には至らなかった。

山形県村山保健所検査課
   同 地域保健予防課
山形県衛生研究所微生物部

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