バーベキュー大会の食事が原因と推察された腸管出血性大腸菌感染症(O157)集団発生事例―福岡市
(Vol. 30 p. 132-133: 2009年5月号)

腸管出血性大腸菌(EHEC)感染者は、感染症法に基づく3類感染症として全数届出が義務付けられており、感染症発生動向調査による報告数は例年約3,000〜4,000で推移し、食品衛生法に基づき食中毒と断定された集団発生事例も年間数事例が報告されている。

福岡市では、2008年9月下旬に会社主催のバーベキュー大会の食事が原因と推察されたEHEC感染症(O157)集団発生事例が発生した。

バーベキュー大会は2008年9月27日、福岡市近郊のキャンプ場で開催された。参加者は職場の同僚およびその家族46名で、そのうち5名(男性2名、女性3名)が10月1日から腹痛、下痢、発熱等の症状を呈し、男性2名が医療機関を受診した。バーベキュー大会で使用された食材は、牛骨付きカルビ、和牛もも肉、牛ハラミ、牛丸腸、鹿肉、エビ、焼きそば用の麺、野菜類であった。

検査は、医療機関を受診した有症者2名を除いたバーベキュー大会参加者44名について、10月8日〜10日にかけて実施した。食品等の残品は残っておらず、検査を実施することがなかった。検体はシードスワブ(COPAN)にて採便し、培養等は、(1) 2.5mg/l亜テルル酸カリウム加ソルビトールマッコンキー寒天培地(自家製:BD)、O157:H7 ID培地(BIOMERIEUX)での直接分離培養(37℃、18〜20時間培養)、(2)Tryptic Soy Broth(BD)にて37℃、6時間培養後、Dynabeads anti-E.coli O157(invitorogen)によりO157を選択濃縮後、分離培養(37℃、18〜20時間培養)、および培養液中のVero毒素のスクリーニングを目的に、(3)マイトマイシンC(最終濃度100μl/l)添加CAYE培地(自家製)で37℃、18時間以上浸盪培養後、ノバパスベロ毒素EIAキット(BIO-RAD)によりVero毒素を測定した。分離されたコロニーは常法に従い、生化学的性状検査、血清学的検査およびPCR 法(TaKaRaキット)によるVero毒素遺伝子の型別を行った。

分子疫学的解析は制限酵素Xba Iを用いてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行った。

検査の結果、44名中18名(41%)から、EHEC O157:H7(VT1&2)が分離され、初発患者(男性1名)を含めて同菌の感染者は計19名(男性10名、女性9名)となった。これら感染者の接触者や家族等(バーベキュー大会不参加)についても検査を実施したが、当該菌は検出されず、人→人による感染の拡大はみられなかった。

今回実施した3種類 (1)、(2)、(3)の検査法による結果は、ほとんどの検体で一致したが、Dynabeads anti-E.coli O157による選択濃縮でのみO157が数コロニー検出され、直接分離培養では分離されず、EIA法でもVero毒素の確認ができなかった感染者が数名みられた。これらの感染者は、いずれも無症状であり、また、バーベキュー大会の食事により感染したと仮定すると、喫食から検便までに10日〜13日間を要したため、糞便中の菌量が微量となり、直接培養およびEIA法では検出できなかったものと考えられた。このことから、特に、推定曝露時から検査までに10日以上を経過する場合のO157検索には選択濃縮法は有用であり、併用することが望ましいと考えられた。

福岡市では、2008年9月22日〜10月7日の間に9事例のEHEC O157:H7(VT1&2)感染事例が相次いで発生し、菌のPFGE解析により、3つのパターンが認められたが、その半数の事例で焼肉、レバ刺し等の食肉類の喫食歴が確認された(図1)。本事例においても、聞き取り調査の結果、感染者全員が食肉類を喫食しており、かつ未加熱部分がある状態で喫食したことが判明したが、菌に汚染された食材の特定は困難であった。

分離された代表株のPFGEパターンは一致し(図1 レーン8〜10)、感染者はバーベキュー大会の参加者だけであり、不参加者から当該菌は検出されなかったこと等から、本事例はバーベキュー大会で使用された食材を介したEHEC感染症(O157)集団発生事例と推察された。本来、肉類の生食(牛刺し、レバ刺し等)は避けるべきであり、今後とも肉類の十分な加熱等、生肉の喫食を避けることについて、さらに注意喚起する必要があると痛感された。

福岡市保健環境研究所
尾崎延芳 眞子俊博 藤丸淑美 吉田眞一

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