2008年度に佐賀県で発生した腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は25事例95名であり、このうちO157によるものは18事例74名、O26が2事例14名、その他の血清型が5事例7名であった(表)。集団感染事例は4事例59名(O157:3事例、O26:1事例)であり、いずれも保育園において発生している。この4事例について報告する。
事例1:武雄市 A保育園
8月29日、県内医療機関からEHEC感染症O157(VT2)の発生届が管轄保健福祉事務所に提出された。患者は22日から下痢症状を呈していたが、26日に血便(粘血)を呈し受診した。接触者93名(患児家族7名、園児69名、職員17名)の検便を実施したところ、患児の母親と兄2名、同じ保育園の園児3名よりEHEC O157(VT2)を検出した。パルスフィールド・ゲル電気泳動法(以下PFGE)による遺伝子解析の結果、すべての遺伝子パターンは一致した(図)。初発患児の感染経路については感染源の推測はできなかった。しかし、水様便がありながらも保育園に登園しており、同じクラスの幼児が25日に発症していることから、おむつ交換等で職員を介して感染が起こったと考えられる。保育園では日ごろから消毒行為は徹底していたというものの、調査の結果、消毒液の作製、管理が不十分であったことが判明した。そのため再度、管理の徹底とマニュアル見直しの指導を行った。また、他のクラスの園児への感染については、初発患児との直接的な接触はないものの、弟妹が同じクラスにいたことから(感染なし)、衣服や環境から間接的に汚染され、指しゃぶり等で感染した可能性がある。
事例2:武雄市 B託児所
10月12日、県内医療機関からEHEC感染症O26(VT1)の発生届が管轄保健福祉事務所に提出された。患者は12日から悪心、嘔吐症状を呈し受診した。接触者11名(託児所の児童7名、職員3名、患児保護者)の検便を実施したところ、児童(7名)と初発患者の母親の感染が確認された。また、患者の兄(同託児所通園)も、後日感染が確認された。PFGEによる遺伝子解析の結果、すべての遺伝子パターンは一致した(図)。託児所の給食は職員1名が保育業務をしながら調理を行っており、給食を介した感染が考えられた。しかし同じ給食を食べた職員は感染していなかったこと、調理室のふきとりから菌が検出されなかったことから特定はできなかった。園児のほとんどの両親が核家族の共働きであり、実家等への感染拡大を防止するため、休園の措置を取らずに無症状園児の保育は継続した。職員の感染防止、環境の消毒徹底、手洗いの励行、給食提供上の注意事項について指導した。
事例3:伊万里市 C保育園
10月31日、県内医療機関からEHEC感染症O157(VT1&2)の発生届が管轄保健福祉事務所に提出された。患者は26日から下痢症状を呈していたが、30日に血便を呈し受診した。初発患者届出の時点で3歳児クラスを除く全クラスで10名程度の園児に下痢等の症状があった。特に4歳児クラス(初発患者在籍)に集中していた。接触者(患者家族、保育園児および職員)全員を対象に検便を実施した結果、17名(園児12名、職員1名、家族4名)から同菌が分離され、当センターにおいてPCRでVero毒素が確認された。PFGEではすべてが同一のパターンを示した(図)。感染経路については不明だが、集団事例となった要因として10月27日から下痢等の症状を呈している園児が増えていたが、園はEHECによる感染症を疑わなかったとのことで、施設内の消毒や手洗い等が不十分であったと考えられる。また、保護者の就労支援のため、有症状園児を預かり、無症状の園児と同室で保育を行っていたことも感染拡大のひとつとなったと考えられる。
事例2、3については、医師の方針で患者に抗菌薬を処方しないケースがあり、治癒までに時間を要した。事例2では園児全員の菌の陰性化を病院で確認した1週間後、保健所で最終確認のため検便を実施したところ、再び園児2名から菌が検出された。事例3では抗菌薬を処方されなかった7ケースのうち2ケースは自然経過により菌陰性化したが、残り5ケースについては陰性化しなかったため、他の医療機関に転院し、抗菌薬を服用した結果、菌の陰性化に成功した。臨床上の治療の方向性と公衆衛生上の蔓延防止を実施する方向性の相違があった事例で、今後このような事例が増加すれば、迅速な蔓延防止を行うことが困難になり、公衆衛生上問題になると考えられた。
事例4:伊万里市 D保育園
11月20日、県内医療機関からEHEC感染症O157(VT2)の発生届が管轄保健福祉事務所に提出された。患者は14日から下痢症状を呈していたが、18日に腹痛が悪化し受診した。当初、保育園における健康調査では有症状者が園児1名のみであったため、接触者(患者家族・職員全員・有症状園児1名)の検便を実施した。その結果、有症状園児が陽性であったため、園児全員の検便を追加実施し、6名の園児が陽性であった。当初、園で接触者の健康調査等を実施した時点では、保育園では園児の健康状態をよく把握していなかったことが園児全員の検便を追加実施する要因となった。PFGEではすべてが同一のパターンを示した(図)。この保育園は早朝と夕方に時間外保育を行っており、この時間帯はクラスに関係なく1カ所に集めて保育していた。また、初発患者の在籍するクラスの他の陽性者は同じテーブルを使って活動する者が多く、感染が拡大しやすい状況にあったと考えられた。本事例の特徴は、家族間での発生が多く、特に母子間や兄弟間の感染が多いことであった。その要因としては、一緒に入浴していたことが感染拡大の要因と考えられる。また、園児の家族に食品製造業に従事するものが多かったため、手洗いや消毒の徹底を指導し、営業自粛等の協力を得て、感染拡大防止に努めた。
佐賀県衛生薬業センター
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