沖縄県石垣島のブタからの日本脳炎ウイルス抗体および遺伝子型III型の日本脳炎ウイルス遺伝子の検出
(Vol. 30 p. 155-156: 2009年6月号)

沖縄県において日本脳炎患者は1998年以降報告されていないが、感染症流行予測調査におけるブタの日本脳炎ウイルス(JEV)感染調査の結果から、沖縄県は現在もJEVが存在している地域といえる。しかし、この調査は沖縄本島のみで行われており、それ以外の沖縄県内の島々におけるJEVの活動状況は多くが不明である。そこでいくつかの島においてJEV調査を実施したところ、沖縄本島から南西に約400km離れた石垣島のブタからJEV抗体と遺伝子型III型のJEV遺伝子を検出した。

石垣島の5〜10カ月齢のブタから血液を2005年8月に39検体、2006年6〜8月に30検体、2007年9月に43検体、合計112検体を収集し、赤血球凝集抑制(HI)試験による血清中JEV抗体の検出と、E領域を標的としたRT-PCRおよびnested-PCRによるJEV遺伝子の検出[プライマーセット:JEen37s-first、JEen329c-firstおよびJEen98s-second、JEen301c-second 1)]による調査を行った。

JEV抗体は112検体中5検体(4.5%)が陽性を示し、そのうち4検体が2-メルカプトエタノール(2-ME)処理により2-ME感受性抗体(IgM抗体)陽性を示した(表1)。JEV抗体陽性の5検体はいずれも2005年8月に集められており、2005年8月のJEV抗体陽性率は12.8%(5/39)であった。また、2005年8月に集められたJEV抗体陰性の1検体からJEV遺伝子が検出された。このJEV遺伝子の塩基配列を既知のJEV株と比較した結果、遺伝子型III型に属し、1982〜1991年に日本や韓国、中国で分離された株や、2002〜2004年に中国で分離された株とは異なるクラスターに分類され、1985〜1996年に台湾で分離された株と同一のクラスターを形成した(図1)。この検体をVeroおよびC6/36細胞に接種したが、ウイルスは分離されなかった。

流行予測調査において、沖縄本島を含めた西日本のブタのJEV抗体陽性率が、毎年夏季には80%を超えることからすると、石垣島におけるJEV活動状況は極めて低いことが考えられた。2000年以前の調査においても石垣島におけるJEV活動状況は低いことが示されており、その要因として1945年以降に行われた大規模な蚊の駆除作業が関与している可能性が報告されている 2,3)。しかし、今回の調査ではIgM抗体およびJEV遺伝子が検出された。石垣島では養豚、稲作が行われており、JEVが活動する状況は揃っていることから、今後、JEV活動が活発になる可能性がある。

また、近年、日本国内や沖縄本島から検出されるJEVは遺伝子型III型から遺伝子型I型となっているが、石垣島では依然として遺伝子型III型のJEVが維持されている可能性が示された。ブタのJEV抗体陽性率が極めて低いことから、石垣島のJEV感染環にブタ以外の家畜やイノシシなどの野生動物が関与している可能性、もしくは、JEV抗体およびJEV遺伝子はいずれも2005年8月に収集された検体から検出されたことから、時折、渡り鳥などにより台湾から新たにJEVが持ち込まれている可能性があり、JEVの動向把握と生態的解明のためにも、沖縄県石垣島におけるJEV調査は引き続き重要であると考えられた。

 文 献
1) Kuwayama M, et al ., Emerg Infect Dis 11: 471-473, 2005
2)小林 譲, 他, 感染症学雑誌 58: 214-222, 1984
3) Tadano, M, et al , Microbiol Immunol 38: 117-122, 1994

沖縄県衛生環境研究所
仁平 稔 平良勝也 岡野 祥 松田聖子 糸数清正 久高潤 中村正治 玉那覇康二
沖縄県北部食肉衛生検査所 多田雪宏
沖縄県福祉保健部薬務衛生課 宮城国太郎

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