冬季に捕獲されたイノシシからの日本脳炎ウイルスの分離
(Vol. 30 p. 156-157: 2009年6月号)

近年、西日本を中心に住環境に野生のイノシシが出現する機会が増加している。イノシシはブタの起源とされる動物種であるが、日本脳炎ウイルス(JEV)に対する抗体あるいは遺伝子が検出されているものの、今までウイルスが分離された報告はない。兵庫県下の都市部ではしばしばイノシシが出没し、有害鳥獣として猟期以外にも捕獲される事例が増加している。2008(平成20)年12月12日、六甲山系の南側に位置する西宮市で捕獲されたイノシシの血清からJEV遺伝子が検出された。捕獲されたイノシシはオスで体重は25kg、推定年齢1歳であった。

ただちにVero細胞によりウイルス分離を試みた結果、JEVが分離された(遺伝子型 I型)。分離ウイルスの遺伝子解析を実施した結果、三重県で2005年にブタから分離されたJEVとホモロジーが99%であり、近年わが国のブタから分離されるJEVと近縁であることが判明した()。また、血清中のウイルス遺伝子配列と分離ウイルスの遺伝子配列は100%一致した。血清中のウイルスRNAのコピー数は、4.4×105 copies/mlであった。さらにウイルス分離後、冷蔵保存されていた血清中の感染性ウイルス粒子数をプラーク形成法により測定したところ、2×103 pfu/mlであった。しかし、捕獲から遺伝子検査まで約1週間、プラーク形成法まで約2週間検体が冷蔵保存状態であったことから、本イノシシの生体中のウイルス量は、これらの結果より高かったものと推定され、JEVの増幅動物となりうる可能性が示唆された。なお、本イノシシの血清ではJEVに対するIgMおよびIgG抗体は陰性であった。また、ウイルスが分離されたイノシシからダニも採集され、ダニ体内でJEVが越冬する可能性も検討中である。

その後、2009(平成21)年5月上旬に六甲山系の北側で捕獲されたイノシシ(メス、体重15kg、推定年齢1.5歳)の血清から、JEV遺伝子を検出した。以上のことから、イノシシにおけるJEV感染は、ブタにおけるよりも遅い季節まで存在し、ブタよりも早い時期に出現することが強く示唆された。

イノシシの捕獲、検体の送付に関しまして、兵庫県猟友会西宮支部、西宮市環境衛生課の方々に多大なご協力をいただき、ここに感謝いたします。

国立感染症研究所ウイルス第一部 高崎智彦 小滝 徹 倉根一郎
国立感染症研究所昆虫医科学部 澤辺京子 林 利彦 小林睦生

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