2009年3月〜4月上旬にかけて、メキシコで呼吸器疾患の集団発生があり、国内数カ所においてインフルエンザ様疾患(ILI)の報告が増加した。4月12日、疫学総局(DGE)は国際保健規則に基づき、Veracruz州の小区域でILIの集団発生がおきていることを汎アメリカ保健機関(PAHO)に報告した。
サーベイランスの強化:4月17日、Oaxaca州で非定型肺炎症例が発生し、DGEはインフルエンザ監視ユニットや病院に全国的な警告を発した。病院には重症呼吸器疾患を全例報告するよう求め、呼吸器検体を発症から72時間以内に採取するよう推奨した。4月23日には、数例の重症呼吸器疾患症例でブタ由来インフルエンザA/H1N1ウイルス(S-OIV)感染が確認され、シークエンス解析により、米国カリフォルニア州在住の小児2人から同定されたものと同一のS-OIV株に感染していることが判明し、DGEは以下の症例定義を定めた。疑い症例:発熱、咳、呼吸困難を伴う重症呼吸器疾患。可能性症例:疑い症例中採取された検体がインフルエンザA型陽性であったもの。確定症例:可能性症例中リアルタイムRT-PCRによりS-OIV陽性となったもの。
3月1日〜4月30日までに、1,918例の疑い症例が報告され、そのうち286例が可能性症例で、97例は確定症例であった。84例の死亡例が報告された。情報の得られた疑い症例および可能性症例1,069例のうち、755例は入院患者で、残りの314例は外来あるいは救急部で検査が行われた。疑い症例、可能性症例はメキシコ全31州と連邦区から報告された。症例数の多い地域はメキシコ連邦区(213例)、Guanajuato(141例)、Aguascalientes(93例)、Durango(77例)の4地域であった。他の州は2〜46例であった。疑い症例および可能性症例は全年齢階級で見られた。1月4日〜3月11日の間にメキシコ国内全体の外来施設で定期的に行っている季節性インフルエンザサーベイランスネットワークにおいて6州から収集された51例のインフルエンザA型陽性検体すべては、CDCで行われた検査でS-OIV陰性であった。
S-OIV感染の確定症例:4月30日までに、重症呼吸器疾患患者に焦点を絞ったDGEサーベイランスで、検査室診断により97例(死亡7例を含む)がS-OIV感染と確定された。最初の症例の発症は3月17日と報告された。臨床的情報が得られた24例のうち20例(83%)が入院患者で、3例は外来で検査され、1例は医療機関を受診していなかった。患者の年齢は0〜59歳で、79%は5〜59歳、62%は女性であった。
完全な診療記録があった16例中、発熱15例、咳13例、頻呼吸10例、呼吸困難9例で、嘔吐または下痢7例が報告された(嘔吐のみ2例、下痢のみ2例、両方3例)。また、8例は集中治療室(ICU)に入院、そのうち7例は人工呼吸器装着を必要とし、6例は急性呼吸促迫症候群(ARDS)を発症し死亡した。レントゲン撮影された15例中12例で肺炎を認めた。16例のうち3例では基礎疾患があった。死亡前の入院期間の情報が得られた6例の入院期間は1〜18日(中央値9日)であった。
予防と対策:4月24日に、公衆衛生評議会はメキシコ共和国大統領と会合を開き、連邦区とMexico市の首都全域の学校閉鎖をした。発着する航空機の乗客にはアウトブレイクの情報を提供し、ILIを呈したらすぐに受診することを推奨した。その他の対策は1)マスメディアを介した呼吸器の衛生(咳エチケット)に関する啓発、2)国民へのマスクおよびアルコール手指消毒剤の配布、3)教会での礼拝、劇場でのイベントおよびサッカー観戦などを含む大規模集会を避けることを推奨、など。4月25日に国内法令は疑い症例の自宅隔離を許可し、4月27日に国内全土で休校の命令が出された。
(CDC, MMWR, 58, No.17, 467-470, 2009)