ワクチン由来ポリオウイルスによるポリオ流行
(Vol. 30 p. 174-176: 2009年7月号)

はじめに
WHOを中心として進められている世界ポリオ根絶計画は、現在さまざまな困難に直面している。残されたポリオ流行国4カ国(インド、パキスタン、アフガニスタン、ナイジェリア)では、頻回にわたるワクチン接種キャンペーンにもかかわらず、依然1型および3型野生株ポリオウイルス伝播が継続しており、流行国から周辺国に伝播した野生株によるポリオ再流行が頻発している。また、近年その実態が明らかになるにしたがい、ワクチン由来ポリオウイルス(VDPV)によるポリオ流行の発生も、ポリオ根絶前後におけるリスク要因として重要視されるようになってきた。

2000〜2001年にかけて、1型VDPVによる大規模なポリオ流行が、ヒスパニオーラ島で初めて報告されて以来、VDPVに由来するポリオ流行が、2000年以降、ほぼ毎年、世界各地で報告されている(図1) 1)。VDPVによるポリオ流行において検出されるポリオウイルス血清型は、2型が最も多く、1型がそれに続くが、3型はまれである。WHO西太平洋地域においては、2001年フィリピンにおける1型VDPV、2004年中国貴州省における1型VDPV、さらに、2005〜2006年にかけてはカンボジアで3型VDPVによるポリオ流行が発生した。これまでに報告されているVDPVの多くは、伝播過程で弱毒化を規定するゲノム遺伝子部位が点変異や遺伝子組換えにより消失し、神経毒力復帰を起こしていることが示唆されている。また、抗原性や温度感受性等のウイルス学的性状についても、強毒型への復帰が認められる。さらに、これまでに解析されたVDPVの多くは、伝播過程で非ポリオエンテロウイルスとゲノム遺伝子組換えを起こした組換えウイルスであった 2)。ポリオ流行との関連が明らかになった例はないが、免疫不全患者等におけるワクチン由来ポリオウイルス長期感染事例も、世界全体で、のべ40例以上報告されており、野生株ポリオ根絶後には、ポリオ流行のリスク要因のひとつになると考えられている。

VDPVによるポリオ流行は、当初、野生株ポリオウイルス伝播が終息した後、経口生ポリオワクチン(OPV)接種率が低下した地域で発生しやすいと考えられていた。しかし、いまだ多くの1型および3型野生株ポリオ症例が発生しているナイジェリア北部では、野生株ポリオ伝播と並行して、2型VDPVによるポリオ症例が多発していることが明らかになった(図2)。ワクチン由来株の分子系統解析により、ナイジェリア北部の広範な地域で、2型VDPVが長期的に伝播し、2005〜2009年にかけ多くのポリオ発症(2009年5月時点で計223症例)に関与していることが明らかとなっている 3)。ナイジェリアにおけるVDPVによるポリオ流行は、OPVを使用している地域では、野生株ポリオ流行地域・非流行地域にかかわらずVDPV伝播のリスクがあることを示しており、適切なコントロール戦略が実施されない場合、野生株ポリオ同様、VDPVによるポリオ流行も長期間にわたり継続することを示している。その一方、ナイジェリアの流行を除くと、他の地域のVDPV流行は、OPV追加接種キャンペーン等により比較的短期間に終息しており、野生株ポリオ根絶と同様の手法によりVDPV流行の効果的コントロールが可能であると考えられる。

野生株ポリオ根絶後、OPV接種を続ける場合、ワクチン関連麻痺発生およびVDPVによるポリオ流行のリスクは継続する。OPV接種を世界的に停止した場合、ワクチン関連麻痺の発生はなくなり、VDPVによるポリオ流行のリスクも次第に減少すると想定されている。そのため、OPV接種停止前後、不活化ポリオワクチン(IPV)導入によりポリオに対する集団免疫を維持することが、VDPVによるポリオ流行のリスクを減らすうえで重要であると考えられている 4)。

 文 献
1) Kew OM, et al ., Annu Rev Microbiol 59: 587-635, 2005
2)清水博之, 臨床とウイルス 26: 149-158, 2008
3) CDC, MMWR 57: 967-970, 2008
4) Ehrenfeld E, et al ., Lancet 371: 1385-1387, 2008

国立感染症研究所ウイルス第二部 清水博之

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