ポリオ中和抗体保有状況ならびにポリオワクチン接種状況
(Vol. 30 p. 178-180: 2009年7月号)

はじめに
感染症流行予測調査は、1962年に伝染病流行予測調査事業(2000年からは感染症流行予測調査事業)として、集団免疫の現状把握および病原体の検索等の調査を行い、各種疫学資料と合わせて検討し、予防接種事業の効果的な運用をはかり、さらに長期的視野に立ち総合的に疾病の流行を予測することを目的に開始された事業である。実施の主体は厚生労働省健康局結核感染症課であり、都道府県、地方衛生研究所、国立感染症研究所が協力し、血清疫学調査(感受性調査)、病原体検索(感染源調査)を全国規模で行っている。

抗体保有状況については、結果解析可能な最新年度である2007年度調査(山形県、東京都、富山県、愛知県、山口県、愛媛県の6都県1,607名)について、予防接種率については、結果解析可能な最新年度である2008年度調査(全国3,693名)について、現時点での集計より暫定値として報告する。2007年度ならびに2008年度調査の詳細は、今年度発行予定の2007年度ならびに2008年度感染症流行予測調査報告書(厚生労働省健康局結核感染症課、国立感染症研究所感染症情報センター)を参照されたい。

年齢別ポリオワクチン接種率
ポリオワクチンの定期予防接種対象年齢は生後3カ月〜90カ月未満であるが、定期(一類疾病)の予防接種実施要領では、「生後3月に達した時から生後18月に達するまでの期間を標準的な接種期間として41日以上の間隔を置いて2回行うこと」と規定されている。

2008年度感染症流行予測調査事業に基づき全国から報告されたポリオワクチン接種率は56.5%であり、接種歴不明の1,417名を除いた2,276名でみると91.6%であった。なお、接種歴は1回以上あれば有りとした。年齢別にみると、0〜5カ月5.6%、6〜11カ月57.6%、1歳89.4%、2歳95.1%、3歳96.6%、4歳98.6%と急速に上昇し、18歳までは80%以上の高い接種率であった。その後は年齢とともに減少した(図1)。

厚生労働省が発表しているポリオワクチンの実施率を図2に示す。実施率の計算方法は、地域保健事業報告の定期の予防接種被接種者数を分子とし、標準的な接種年齢期間の総人口を総務省統計局推計人口(各年10月1日現在)から求め、これを12カ月相当人口に推計した人口を分母として計算したものである。1995(平成7)年度以降の実施率は、2000(平成12)年度にポリオワクチン接種との関連が疑われるとして健康障害が2事例報告されたことから、一時1回目91.0%、2回目81.1%と低下したが、その後速やかに回復し、2006(平成18)年度まで極めて高く維持されている。

年齢/年齢群別ポリオウイルス中和抗体保有状況(図3図4図5
2007年度は6都県、合計1,607名でポリオウイルス1型、2型、3型に対する中和抗体が測定された。

1型に対する中和抗体保有状況:1:4以上の抗体保有率は、0〜5カ月齢57.1%、6〜11カ月齢67.3%、1歳90.4%、2歳95.8%、3歳98.6%まで急激に上昇し、その後19歳までは90%以上の極めて高い抗体保有率であった。20〜29歳は87.1%〜 100%の高い抗体保有率であったが、30〜33歳の年齢で、それぞれ72.0%、52.2%、82.4%、60.0%と抗体保有率が低く、それ以上の年齢層では再び80%以上の高い保有率になった。30〜33歳群は厚生労働省が予防接種を推奨している1975〜1977(昭和50〜52)年生まれに相当する(IASR 18: 3, 1997)。

2型に対する中和抗体保有状況:1:4以上の抗体保有率は、0〜5カ月齢71.4%、6〜11カ月齢67.3%、1歳92.8%、2歳97.2%、3歳98.6%まで急激に上昇し、それ以上の年齢では、80%以上の高い抗体保有率であった。1型で抗体保有率が低かった30〜33歳の年齢では、それぞれ84.0%、87.0%、100%、93.3%と抗体保有率の低下は認められなかった。

3型に対する中和抗体保有状況:1型、2型と同様に、1:4以上の抗体保有率で見ると、3型は全体的に低い抗体保有率であった。0〜5カ月齢14.3%、6〜11カ月齢20.4%、1歳65.1%、2歳76.4%までは急激に上昇し、3〜6歳では70%台と比較的高い抗体保有率であった。しかし、7歳で54.8%と低下し、8〜11歳では50〜60%台の低い抗体保有率であった。その後12歳で再び70%台に上昇し、17歳までは70%台の保有率を維持していた。18歳から61.5%と再び低くなり、19歳で54.2%、20歳で42.9%と、1歳以上では最も低い保有率であった。それ以上では年齢とともに緩やかに上昇し、45歳以上で80%以上となった。

年度別年齢/年齢群別ポリオ中和抗体保有状況(図6図7図8
1981年度、1988年度、1996年度、2003年度、2007年度の抗体保有状況を比較した。1型の中和抗体保有率(1:4以上)は、すべての調査年度で1975〜1977年生まれの年齢層の抗体保有率が低かった。2型については、概ね高い保有率が維持されていた。3型はすべての調査年度で、1型、2型に比較すると抗体保有率が低いが、青壮年層の抗体保有率は1980年代と比較すると、低下していた。

まとめ
予防接種後の副反応が認められると、それに伴い接種率が低下する傾向が認められるが、2000(平成12)年度に認められた副反応の影響から一時的に予防接種率が低下した。しかし、それ以降は速やかに回復し、現在も高い予防接種率が維持されていた。

中和抗体保有率は3型以外では極めて高い保有率であったが、1975〜1977年生まれの年齢層に認められた1型に対する低い抗体保有率は、すべての年度で同様の結果であった。この年齢層への予防接種が引き続き推奨される。

ポリオ根絶に向けて、世界中がその努力を続けているところであるが、現時点ではまだ野生株ポリオが流行している国が存在することから、根絶宣言がなされている日本においても、引き続き高い予防接種率を維持することが重要である。今後は、稀に認められる接種後の麻痺例が発生しない不活化ポリオワクチンの開発が待たれるところである。

国立感染症研究所感染症情報センター 多屋馨子 佐藤 弘 北本理恵 岡部信彦
国立感染症研究所ウイルス第二部 清水博之
2007年度感染症流行予測調査事業ポリオ感受性調査担当
山形県 東京都 富山県 愛知県 山口県 愛媛県および各都県衛生研究所

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る