野生株ポリオウイルスの実験室封じ込め
(Vol. 30 p. 181-182: 2009年7月号)

世界的ポリオ根絶達成およびその後の経口生ポリオワクチン(OPV)接種停止を視野に入れて、ポリオウイルス野生株の実験室封じ込めについて具体的な行動が必要とされている。WHOは「野生株ポリオウイルスの実験室封じ込めに関する世界的行動計画(第2版)」を策定し、世界的に統一された基準の下、ポリオウイルス野生株の実験室封じ込めを進めることを、すべての加盟国に求めている。

わが国では、WHO西太平洋地域における野生株ポリオウイルス伝播の終息を受け、厚生省(当時)により、2000〜2002年にかけて 7,865施設を対象とした大規模かつ広範な野生株ポリオウイルス保有施設調査が行われた(表1)。しかし、2000〜2002年の調査では調査票の全体的な回収率が低く、また、調査未回答施設に対するフォローアップが行われておらず、全体的な調査精度とその後のフォローアップに関する多くの問題点が指摘された。2004〜2005年にかけて、野生株ポリオウイルスを保有する可能性のある施設を有する、厚生労働省所管施設(11,509施設)および文部科学省所管施設(1,367施設)を中心に、より精度の高い野生株ポリオウイルス保有調査が行われた。2004〜2005年の調査では、実験室封じ込めの対象にワクチン由来ポリオウイルス(VDPV)を含むこと等、WHOによる封じ込め基準の周知を図ることにより、より正確な調査を実施した。その後、2006〜2007年にかけて、厚生労働科学研究事業により、地方衛生研究所等ポリオウイルスを保管する可能性が高い施設を対象とした追加調査を実施し、また、ポリオウイルス関連文献サーベイを利用してポリオウイルス研究施設を把握することにより、より精度の高い保有施設調査を継続した。これら複数の異なる手法による追加調査により、以前の大規模調査で得られた野生株ポリオウイルス保有施設調査のフォローアップを行った(表1)。

2007年6月に施行された改正感染症法により、ワクチン株以外のポリオウイルスは四種特定病原体に分類され、法律に基づいた管理が義務づけられた。四種特定病原体の保有については、法律による届出の義務はないが、野生株ポリオウイルス保有施設のフォローアップの際、感染症法に基づいたポリオウイルスの適切な保管・管理について周知を図ることが可能となり、不要なポリオウイルス感染性材料・感染性を有する可能性のある材料の廃棄を促す結果となった。

2000〜2008年におけるすべての調査により得られた情報を、厚生労働省と国立感染症研究所により集計・評価し、野生株ポリオウイルス感染性材料・感染性を有する可能性のある材料を保有する可能性のある82施設をリストアップし、所管省庁の了解のもと各施設に対し確認調査を実施した。その結果、2008年時点で、野生株ポリオウイルス感染性材料を保有する14施設が特定された。その後、新たに1施設が、他施設からの分与を受け野生株ポリオウイルスを保有したため、2008年末時点で計15施設が野生株ポリオウイルス保有施設としてリストアップされた。2008年12月、日本は中国とともに、現時点における野生株ポリオウイルス保有施設リストを含む野生株ポリオウイルス実験室封じ込め第一段階最終評価報告書(Final quality assurance report of phase 1 wild poliovirus laboratory containment)を、WHO西太平洋地域ポリオ根絶認定委員会第14回年次会議に提出した。西太平洋地域では、日本と中国以外のすべての加盟国は、すでに野生株ポリオ実験室封じ込め第一段階調査と外部評価を完了しており、今回の最終報告書の提出と承認をもって、西太平洋地域全体の野生株ポリオウイルス実験室封じ込め第一段階調査完了が宣言された。

今後、世界ポリオ根絶計画が進展し、野生株ポリオウイルス伝播が世界的に終息した後、ポリオワクチン接種を停止した場合、実験室に由来するポリオウイルスによるポリオ流行のリスクが次第に大きくなる。将来的にはワクチン株も含めたポリオウイルスの実験室封じ込め基準が、より厳格となることが想定されている。そのため、野生株ポリオウイルス実験室封じ込め第一段階調査の過程で作成した保有施設リストの維持管理が今後重要となり、ポリオウイルス保有施設リストのアップデートを継続する必要がある。あらたに野生株ポリオウイルス(VDPV等を含む)を保有する施設、あるいは、すでに野生株ポリオウイルス感染性材料を保有する施設が感染性材料を完全に廃棄する際は、以下の担当部署まで連絡いただくことをお願いしたい。

厚生労働省健康局結核感染症課 Tel: 03-5253-1111(担当・小林一司主査)
国立感染症研究所ウイルス第二部 Tel: 042-561-0771 (担当・清水博之室長)

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