世界的な野生株ポリオウイルス伝播遮断に向けた進捗状況、2008年
(Vol. 30 p. 189-190: 2009年7月号)

1988年当時ポリオは毎年約35万例が報告されていたが、2007年に1,315例に減少した。現在は1型野生株ポリオウイルス(WPV1)と3型野生株ポリオウイルス(WPV3)が、アフガニスタン、インド、ナイジェリア、パキスタンに残るのみである。しかし、北ナイジェリアのWPV1再流行を期に、同国南部、近隣8カ国に伝播し 1,655例まで増加した。インドでは単価経口ポリオワクチン(mOPV)の使用により、一時流行地域のWPV1が消失したが、再伝播した。アフガニスタンとパキスタン紛争地域ではワクチン接種が一層困難になりWPV1、WPV3が急増した。アンゴラ、チャド、コンゴ民主共和国、エチオピアでは輸入後1年以上流行が継続している。しかし下半期には、北インドで補足的ワクチン接種活動(SIAs)の質が向上しWPV1が減少、北ナイジェリアの一部でSIAsの質が向上、パンジャブでWPV1の流行終息、アフガニスタンでほぼポリオフリーを維持、といった若干の進捗の兆候もみられる。

経口生ポリオワクチン(OPV)定期接種活動:OPV(3回)接種率は2007年に82%と推定(世界全体)された。地域別では東南アジア(70%)、アフリカ(73%)、東地中海(87%)、アメリカ大陸、ヨーロッパ、西太平洋(92%以上)である。流行4カ国の接種率はアフガニスタン(83%)、パキスタン(83%)、インド(62%)、ナイジェリア(61%)と報告されている。しかし、ナイジェリア北部、インドのBihar とUttar Pradesh 、アフガニスタンとパキスタンの一部ではOPV 定期接種率が40%未満であった。

SIAsの状況:3億4,000万人の子どもを対象に、36カ国で241回のSIAsが実施された。1型mOPVの全OPVに占める使用割合は、2005年の26%から2008年49%にまで増加した。流行4カ国のSIAsの内訳は、インド(42回)、パキスタン(26回)、アフガニスタン(18回)、ナイジェリア(16回)であり、WPVを輸入した15カ国で100回、ハイリスク18カ国で39回実施された。

急性弛緩性麻痺(AFP)サーベイランス活動:サーベイランスの質を示す非ポリオAFP率は2/10万人に到達した。ラボネットワークではAFP患者から157,700便検体、非AFP患者から13,000便検体を検査した。ネットワークに属する145実験室のうち141は正式認証された。インドのムンバイの下水からBihar由来のWPV1およびWPV3が分離された。エジプトではナイジェリア、インド由来のWPV1が下水から分離(患者発生はは無し)された。2型ワクチン株由来ポリオウイルス(VDPV)患者は、アンゴラ(2例)、エチオピア(2例)、ナイジェリア(59例)、コンゴ民主共和国(13例)、ロシア(1例)、ソマリア(1例)で報告された。3型VDPV患者はマラウイ(1例)で報告された。ナイジェリアでは2006年より2型cVDPV(訳者註:OPVの接種率が不十分な地域で出現する伝播型VDPV)の流行が継続している。

WPV患者数:前年に比べ26%増加した(1,655例)。内訳は流行4カ国で1,509例(91%)、輸入14カ国で146例である。型別ではWPV3が前年に比べ994から671例に減少する一方、WPV1は321から984例に増加した。

ナイジェリア:報告数は801例(WPV1:729、WPV3:71、WPV1+WPV3:1)であった。WPV1は北部から南部まで拡大し、全世界のWPV1の約30%がカノ州に集中している。6月には近隣8カ国に伝播した。北部では集団免疫が不十分であり、ハイリスク州の約60%の子供は未接種のままである。SIAsの質はハイリスク州の一部で改善された。

インド:報告数は559例(WPV1:75、WPV3:484)で、主に北Uttar PradeshとBiharで発生した。西部Uttar Pradeshでは約1年間WPV1の報告がなかったが、Biharから再伝播(62例)した。1型mOPVを用いたSIAsが功を奏し、両地域では患者数が8月(21例)に比べ、流行期(10〜12月)には5〜9例に減少した。

アフガニスタン、パキスタン:アフガニスタンの報告数は31例(WPV1:25、WPV3:6)、パキスタンは118例(WPV1:81、WPV3:37)であった。前者は紛争地域(南部)に患者が集中(27例)している。後者は全域で報告され、18カ月以上報告のなかったパンジャブ地域でも下半期にWPV1が再流行した。両国で伝播が継続する要因として、国境地帯の治安悪化が接種活動に影響したことがある。パキスタンではSIAs実施上の問題も接種率に悪影響を及ぼした。

その他の国々:北部ナイジェリア由来WPV1は8カ国へ伝播(ベナン、ブルキナファソ、コートジボワール、ガーナ、マリ、トーゴ、チャド、ニジェール)し、ナイジェリア由来WPV3は、ベナン、チャド、ニジェール、スーダンまで伝播した。インド由来WPV3は、アンゴラ、コンゴ民主共和国、ネパールへ伝播した。チャド、ニジェール、スーダン、アンゴラ、コンゴ民主共和国では輸入後1年以上流行が継続している。

WER編集部註:ポリオ根絶諮問委員会と予防接種戦略諮問委員会(いずれもWHO専門委員会)は、技術的な問題ではなく、運営上および政治的コミットメントが根絶成功の鍵であるとしている。

 (WHO, WER, 84, No.14, 110-116, 2009)

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