研修施設で発生したC群ロタウイルスによる集団胃腸炎事例―神奈川県
(Vol. 30 p. 185-186: 2009年7月号)

2009年4月に神奈川県内の会社の研修施設において、宿泊およびその後の日帰り研修中にC群ロタウイルスによる集団胃腸炎事例が発生したのでその概要を報告する。

4月6日(月)〜8日(水)までの2泊3日間の宿泊および9日以降の日帰り研修で、研修対象者は19名、年齢は18歳〜29歳までであった。急性胃腸炎(下痢・嘔吐)の発症者は研修生8名のみで、調理従事者や研修所の職員に発症者は見られなかった。初発の患者は4月8日12時で下痢1回(普段から下痢ぎみ)であり、同日19時に発症した患者は嘔吐10回、下痢10回、頭痛、腹痛と重症であり医院受診し、点滴治療をうけた。翌日の9日には6時〜20時30分までの間に6名が発症した(表1)。研修中の集団胃腸炎であったために、食中毒、感染症の両面を疑い調査が行われたが、研修初日(6日)から発症日(8日の昼食)までの7食とも同じ食事をしている研修所職員12名と調理従事者1名から発症者がいないことから、グループ研修、ゲーム、懇親会などの直接または間接の接触による感染症と思われる事例であった。

検査検体は、ふきとり6検体、検食7検体、従事者便6検体、発症者便8検体であった(表2)。調査開始時(4月9日)に衛研に搬入されたふきとり、検食についてノロウイルス(NV)のリアルタイムPCR検査を行ったが、遺伝子は検出されなかった(表2)。10日に搬入された従事者6検体と発症者No.4についてNVのリアルタイムPCR検査を行ったが、遺伝子は検出されなかった。また、発症者1検体については電子顕微鏡によるウイルスの検索を併せて行ったが、ウイルス粒子は観察されなかった(表2)。11日に搬入された発症者2検体(No.2、8)について同様の検査を行ったところ、電子顕微鏡によりロタウイルス粒子が確認された(図1)。ウイルス確認のため、ラピッドテスタロタ-アデノ[積水メディカル(株)]を行ったところ陰性であったが、C群ロタウイルスに対するRT-PCRによりC群ロタウイルスであることが確認された。13日に搬入された発症者5検体(No.1、3、5〜7)についてもRT-PCRを行ったところ、5検体中4検体からC群ロタウイルスが検出された。発症者検体からのC群ロタウイルス検出により、ふきとり、検食、従事者についてもC群ロタウイルスの検出を行ったが、これらの検体からはC群ロタウイルスは検出されず、この集団胃腸炎事例はC群ロタウイルスによる成人の集団感染症と考えられた。

我々は県域の小学校でのC群ロタウイルス集団感染症事例は経験しているが、成人の集団感染症事例の経験は初めてであった。聞き取り調査で、発症者、研修所職員、調理従事者において、同居人に小学生以下の子供はいないことは判明しており、どのような感染経路で成人の集団にC群ロタウイルスが持ち込まれたか不明である。

著者らは老人を介護している家庭で、老人介護者を介してA群ロタウイルスの成人への家族内感染を経験しており、今後このような感染経路も考慮し、成人の集団胃腸炎事例についてもC群ロタウイルスの動向に注意していく必要があると考えられた。

神奈川県衛生研究所微生物部 片山 丘 古屋由美子 岡崎則男

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る