2007(平成19)年9月に奈良県郡山保健所管内の弁当屋が調理した弁当を原因食とするSalmonella Enteritidisによる大規模食中毒事例が発生したので、その概要を報告する。
9月20日(木)12時頃、天理市内の医療機関から、16日(日)に実施された自治会の運動会に参加して昼食の弁当を喫食した2名の児童に食中毒様症状がある旨、保健所に届け出があった。保健所が調査したところ、16日に27自治会が参加した地区運動会が開催され、提供された弁当を喫食した参加者の中に17日午前0時頃を初発として、腹痛、下痢、発熱を主症状とする食中毒様症状を呈する者がいたことが判明した。弁当はそれぞれの自治会および主催者が別々の業者に注文しており、調査の結果、3つの自治会と主催者が注文したある業者の弁当(3種類)を喫食した者から発症者が出ていることがわかった。提供数は232食であったが、保健所が喫食者を特定できた183名中105名が発症、うち57名が医療機関で受診していた。臨床症状は、下痢98名、発熱62名(平均38.3℃、最高41℃)、腹痛91名、倦怠感79名、脱力感64名および頭痛52名で、その他として悪寒、吐気、嘔吐等であった。潜伏時間は8.5時間〜101時間(平均41時間15分)と比較的長かった(図1)。
当センターに搬入された検体(糞便、施設・調理器具等のふきとり)について、食中毒菌検査およびノロウイルス検査(糞便のみ)を実施した結果、有症者便31検体中14検体、調理従事者便3検体中1検体の計15検体からS . Enteritidisが検出された。なお、ふきとり5検体からは食中毒菌は検出されなかった。検出された15株のS . Enteritidis株の関連性を調べるため、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行ったところ、Bln I処理後の泳動像パターンはすべて同一パターンであった(図2)。また、ディスク拡散法を用いたアンピシリン、セフォタキシム、ゲンタマイシン、カナマイシン、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、シプロフロキサシン、ナリジクス酸、ST合剤、クロラムフェニコールおよびホスホマイシンの11種の薬剤による薬剤感受性テストはすべて感受性であり、国立感染症研究所に依頼した菌株のファージ型別は、すべてがPT21型であった。
有症者に共通した食事はこの日の特定の業者の弁当のみであること、また、発症の状況がサルモネラ属菌による発症状況に一致していることから、これらの弁当を調製した弁当屋を原因施設とするサルモネラ食中毒と断定された。3種類の弁当にはいずれも出し巻き玉子が入っており、出し巻き玉子には液卵が使用されていた。喫食調査から出し巻き玉子のみの喫食者からも発症者が出ていること、またχ2検定値から弁当食材の出し巻き玉子が主な原因食材と推定されたが、検食が保管されていなかったため特定には至らなかった。さらに、液卵の遡及調査も実施されたが汚染源の特定には至らなかった。S . Enteritidisが検出された従事者1名は、当日調製した弁当食材を喫食したとの申し出があった。液卵は、前日に割卵された冷蔵未殺菌液卵で割卵当日に購入し、翌16日午前6時より出し巻き玉子を調製、9時より弁当盛り付け作業を行い、11時45分頃に運動場へ配達された後の弁当は常温で保存されていた。また、当日同じ食材で同一時間帯に調製した弁当28食が別団体にも10時45分頃に配達されたが、主催者側が喫食時まで冷蔵庫で管理し、この団体には発症者が出なかったことがわかっており、弁当が常温で保管されたことによる菌の増殖が今回の食中毒の大きな要因となったことが考察された。
奈良県保健環境研究センター 大前壽子 橋田みさを 榮井 毅 田辺純子
奈良県郡山保健所