Salmonella Braenderupによる小児重症感染事例と大分県感染症発生動向調査におけるサルモネラ検出状況(2004〜2008年)
(Vol. 30 p. 211-212: 2009年8月号)

当所では、大分県内の主に小児における細菌性散発下痢症の発生動向を調査し、検出された細菌および血清型等を医療機関に情報提供している。2009年2月にSalmonella Braenderupによる小児重症感染事例があったのでその概要および2004〜2008年における大分県内のサルモネラの検出状況について報告する。

事例:患者は2歳8カ月の男児で、2009年2月23日から発熱、腹痛、水様性下痢が10回程度続いたためA診療所を受診し、抗菌薬等を処方され帰宅した。同日の夜、突然全身性強直性けいれんが出現し、数分間続いたため、大分県立病院に緊急入院となった。入院時体温は40.1℃で目線は合うが、四肢は伸展位のままで動かすと強直していた。熱性けいれん改善のためジアゼパム坐剤を投与した。白血球数 8,920/μl、CRP 3.32 mg/dl、インフルエンザ抗原陰性、頭部CT正常、髄液所見は、無色透明で細胞数2/μlであった。

入院後の症状は、発熱、激しい水様下痢(ときに血液混入あり)、腹痛を認めた。便培養検査で、S . Braenderupが検出され、原因菌と考えた。

なお、患者は発症前日の朝食に生卵と納豆を混ぜたものや、夕食に焼鳥屋で鳥刺しを食べた箸でつくね等を食べていた。

患者には、整腸剤内服と輸液で治療を開始し、4病日より自然解熱し、便性・便回数も改善し、腹痛も消失したため、5病日に退院となった(図1)。

サルモネラ検出状況:例年、医療機関から得られた下痢症患者便の検査件数の30%前後からサルモネラが検出されていたが、2005年には検出率が46%と急増し、その後2007年まで40%強の検出率であった。血清型では、1991年以来、S . Enteritidisが首位を独占していたが、2007年は、S . Braenderupが第1位となった(表1)。

大分県内においてS . Braenderupは、これまでほとんど検出されていない血清型であり、2005年に突如21株検出され、2006年に13株、2007年には42株と、全サルモネラ検出数の約半数を占めるまでに検出数が増加し、2005〜2008年の4年間で計78株検出した。他の血清型では、S . Typhimurium、S . Infantis、S . Saintpaul等が毎年検出されている。

S . Braenderupは2005〜2007年の毎年9月をピークに8月〜10月にかけて集中的に検出され(表2)、diffuse outbreakが疑われたため、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析や12薬剤(ABPC、CET、KM、SM、TC、OFLX、CP、CPFX、NA、NFLX、FOM、ST)の感受性試験を実施し、検出株の異同を調べた。制限酵素Xba Iを用いたPFGEでは、得られた泳動像をFingerprinting IIを使用してUPGMA法によるクラスター解析を行った結果、年ごとの差はないことがわかった。また、薬剤感受性は供試した13株ともすべての薬剤に感受性であった。

S . Braenderupによる下痢症について共通の感染源の存在も疑われたが、感染源に結びつくような疫学情報は得られなかった。2008年の検出数は2株と減少し、流行が終息したものと考えられたが、2009年になり、上記事例のような重症例もあったことから、今後も引き続き、サルモネラ症の発生動向に十分な注意が必要である。

大分県衛生環境研究センター 若松正人 成松浩志 緒方喜久代 小河正雄
大分県立病院 糸長伸能 神野俊介

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