2008年11月7日、デンマーク国立血清研究所(SSI)は、新しく特有な同一のMLVA(multiple-locus variable number tandem repeat analysis)プロファイルを持つSalmonella Typhimuriumの感染者8人を確認し、同日、デンマーク国立食品研究所(Danish National Food Institute)が、豚肉製品から感染者と同じMLVAプロファイルの2株を同定した。2008年12月4日、ノルウェー公衆衛生研究所(NIPH)もこの特有なMLVAプロファイルのS . Typhimurium感染者6人を確認し、両国はそれぞれ独自に集団発生調査を開始した。スウェーデンで購入された食肉が感染源である疑いがあるとノルウェーから情報が提供され、スウェーデンも調査を開始した。
本集団発生事例は、国際的集団発生の効果的な探知および対策には、国際的なコミュニケーションチャンネル、早期警告メカニズム、公衆衛生と食の安全に関わる専門家の連携、病原体の分子タイピング手法との調和の重要性を示すものである。
デンマークの調査:合計37人の集団発生株感染者が確認された。集団発生株は供試した抗菌薬すべてに高い感受性を示し、ファージ型(PT)はU288またはRDNCであった。感染者の年齢中央値は54歳(1〜86歳)で、大部分が10月か11月に発症していた。死亡した4人は全員が75歳以上で、基礎疾患を有していた。11月7日の集団発生確認後2週間以内に、デンマークの豚肉および豚肉製品由来のS . Typhimurium分離株で集団発生株が複数回検出された。6社の製品で菌が確認され、1社は食肉解体施設で、卸売業者である他の5社に食肉を供給していることが判明した。さらに、集団発生株は一群の雌豚からも見つかり、この一群の豚は2カ所のと畜場でと殺されており、このうち1カ所は上述の解体施設に食肉を供給していた。また、この食肉解体施設と2カ所のと畜場のうちの1カ所は、スウェーデンの多くの業者に豚肉と牛肉を販売していた。
ノルウェーの調査:10人の集団発生株感染者が確認された。集団発生株は供試した抗菌薬すべてに感受性で、PTはRDNCであった。全員が成人(21〜80歳)で、同国南東部に居住し、発症日は10月末〜12月末であった。8人が発症前の週に国境を越えてスウェーデンのショッピングセンターで購入したひき肉を喫食していた。感染者2人の家庭から採取されたひき肉検体から、集団発生株が分離された。1人の感染者の銀行口座記録からひき肉の正確な購入小売店と購入日が特定され、フードチェーンに沿った追跡を可能にした。
国際的な警告:12月15日にノルウェーのNIPHがスウェーデンの感染症制御研究所(SMI)に集団発生を報告し、類似したS . Typhimurium株の分離がないかを問い合わせたが、PTがRDNCの菌株はないとの回答であった。12月19日に欧州疾病対策センター(ECDC)の食品-水媒介疾患ネットワークを通じて、緊急の調査を依頼したところ、デンマークからPTがU288の集団発生が起こっているとの応答があった。
スウェーデンの調査:集団発生株感染者4人が確認され、全員が成人(うち3人は50代)であった。10〜12月に発症し、いずれも同国南部に居住していたが、1人は発症前にデンマークのコペンハーゲンに居住して仕事をしており、そこで感染した可能性が高かった。3人から分離された株がPT U302と同定された。12月23日、スウェーデン国立食品庁は、ノルウェーの感染者が訪れていたスウェーデンの店舗が、デンマークの調査により集団発生と関連があるとされた問題の食肉解体施設を含むデンマークの3社から輸入した豚肉を販売していたことを確認した。その後、スウェーデンではひき肉2検体から集団発生株が分離された。いずれもスウェーデン南部の食料品店から採取されたものであり、この店はデンマークの当該解体施設から得た豚肉を10〜11月に数回にわたり販売していた。スウェーデンの患者4人はいずれも、この店にも、ノルウェーの患者が訪れた店舗にも行ったことがなかった。しかし、1人は上述のデンマークのと畜場からの肉を仕入れているスウェーデンの別店舗で食肉を購入していた。
製品の追跡調査:製品の追跡調査により、デンマークの食肉解体施設からスウェーデンの店舗への食肉の流通経路が判明した。また、デンマークの2つ目のと畜場由来の製品を追跡したところ、別のスウェーデンの店舗にたどり着き、スウェーデンへの汚染食肉の拡散には、もう1つ別の経路が存在する可能性があることが示唆された。
(Euro Surveill. 2009;14(10): pii=19147 )