2008年11月25日、PulseNetにおけるSalmonella Typhimurium株の同一パルスフィ−ルド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンを持つクラスターの疫学的評価が開始され、2009年1月28日現在、米国43州で529例、カナダで1例の集団発生株による感染が報告されている。本報告は、米国疾病対策センター(CDC)、米国食品医薬品局(FDA)、州および地域保健当局によって現在も行われている疫学研究、回収、感染制御対策の結果を暫定的に要約したものである。
初期集団発生調査:2008年11月10日、CDCのPulseNetスタッフは、通常と異なるPFGEパターン(Xba I処理)であるS . Typhimurium 13株からなるクラスターの報告を受けた。その後、PFGEパターンの極めて類似した41株からなる第2のクラスターが報告され、検証の結果、これら2つのクラスターは単一の集団発生株として、以降合同に調査が行われることとなった。
2008年9月1日以降に発症し、S . Typhimuriumが検出された患者は、2009年1月28日現在529例で、発症日は2008年9月1日〜2009年1月16日にわたっている。年齢中央値は16歳(0〜98歳)で、116例が入院し、8例が死亡した。患者が発症してから、PulseNetへPFGEパターンがアップロードされるまでの日数の中央値は16日であった。初期の疫学調査において、患者への喫食品目の聞き取りでは、患者の86%が鶏肉を、77%がピーナッツバターを喫食していた。なお、過去に行われた食品摂取調査では、一般人の鶏肉とピーナッツバターの摂取頻度は各々85%、59%であった。
ピーナッツバターとの関連:2009年1月3、4日に、CDCと州および地域保健当局は、関連する食品を特定するため、12州からの症例70(年齢中央値18歳)、対照178(同16歳)による症例対照研究を行った。解析の結果、発症7日前以内の「ピーナッツバターの喫食」および「冷凍鶏製品全般の喫食」が、いずれも症例で有意に高かったが、具体的な鶏製品で有意差はなく、ローストピーナッツや瓶詰めピーナッツバターの主要な全国ブランドも関連性はみられなかった。
多数の感染者が出たミネソタ州保健局の徹底した調査で、感染者には3施設(長期療養施設2、小学校1)に滞在、またはそこで喫食している者がいることが明らかとなり、これらの施設に共通の食品供給業者を遡って調べた結果、共通した唯一の食品が、King Nutピーナッツバターであることが判明した。その後、開封されたピーナッツバター容器が検査のため州農務局の検査機関に送られた。そして、1月12日にKing NutピーナッツバターのサンプルからS . Typhimuriumの集団発生株の分離が確認された。また、1月16日にはコネチカット州公衆衛生局の検査機関が未開封の容器入りKing NutピーナッツバターからS . Typhimuriumの集団発生株を分離した。King Nutピーナッツバターの全製品はジョージア州BlakelyにあるPeanut Corporation of America(PCA)の工場で製造されており、1月9〜10日に、ジョージア州、FDA、CDCがPCA工場の立ち入り調査を行った。
ピーナッツバター含有製品との関連:継続した患者の聞き取りにより、多くの患者はピーナッツバターを食べていなかったが、ピーナッツバターを含んだ様々な製品を食べていることが分かった。1月17〜19日、CDCと州および地域保健当局は、さらに詳細を明らかにするため、35州の症例93(年齢中央値17歳)、対照399(同39歳)を対象とした2回目の症例対照研究を行った。暫定的解析の結果、発症7日前以内の「ピーナッツバタークラッカーの喫食」が症例で有意に高く、AustinとKeeblerの2種類のブランドのクラッカーで有意に高かった。いずれのブランドもPCAからピーナッツペーストを仕入れていた工場で製造されていた。その後、患者宅で見つかった未開封のAustinピーナッツバタークラッカーのサンプルを検査した結果、S . Typhimuriumの集団発生株が検出された。
感染制御対策:ジョージア州のPCAは、1月9日にピーナッツバターとピーナッツペーストの製造を自主的に中止し、1月28日には2007年1月1日以降にBlakely工場で製造された乾燥ローストピーナッツ、オイルローストピーナッツおよびピーナッツ製品全品に回収対象を拡大し、Blakely工場での生産も全面的に中止した。1月28日現在、54の企業が2008年7月1日以降にPCAの工場で製造された材料を使用した少なくとも431種類のピーナッツバター含有製品を自主回収している。現在FDAは出荷された製品の追跡調査と、汚染の可能性がある食品の同定を行っている。
(CDC, MMWR, 58, No.4, 85-90, 2009)