エコーウイルス30型による無菌性髄膜炎集団発生事例―東京都
(Vol. 30 p. 215-216: 2009年8月号)

2009(平成21)年4月、都内のある教育施設において、エコーウイルス30型(E30)による無菌性髄膜炎集団事例が発生したので、その概要を報告する。

4月25日、管内の医療機関から同じ教育施設に通う乳幼児・児童計14名を無菌性髄膜炎と診断したとの報告が新宿区保健所にあった。この報告を受け、保健所は積極的疫学調査を開始した。

症例探査のための症例定義は、「当該施設の通学者、職員および通学者の保護者のうち3月22日〜5月21日の間に発熱・頭痛・嘔吐・髄膜刺激症状のいずれかの症状を呈し、無菌性髄膜炎と臨床診断を受けた者」とした。症例は23名、年齢中央値5歳(範囲:1歳〜12歳)、男女比1.6:1であった(図1)。症状別発症率は発熱83%、嘔吐74%、頭痛30%、髄膜刺激症状30%であった。症例は3月22日〜5月6日にかけて認められ、ピークは4月26日であった(図2)。

1例目は3月22日に発症した4歳女児で、発熱・嘔吐・髄膜刺激症状を呈し、3月23日に入院となり、3月30日に退院した。その後1例目と同じクラスの5歳女児2名が4月18日、4月21日にそれぞれ発症した。また、18日に発症した5歳女児の兄も4月22日に発症した。当該施設は毎年4月下旬〜5月上旬にかけて休暇を設定しており、本年も4月25日から2週間が休暇であった。5月7日以降新たな発症者はみられず、エンテロウイルスの潜伏期間(3日〜7日)の2倍にあたる14日経過した5月21日に終息と判断した。

東京都健康安全研究センターには4月28日に新宿区保健所より積極的疫学調査として、当該教育施設において無菌性髄膜炎を発症した患者から採取された糞便3検体が搬入された。この検体についてエンテロウイルス遺伝子のNon code領域を標的とするRT-PCR検査を行った結果、3検体すべてからエンテロウイルスの遺伝子が検出された。各検体から検出されたエンテロウイルス遺伝子(約300bp)について遺伝子解析を試みたところ、検出された遺伝子の塩基配列はすべて同じであった。また相同性検索の結果、検出された遺伝子は、E30の塩基配列と100%一致することが確認された。

これらの検体についてHeLa、HEp-2およびRD-18S細胞に接種し分離試験を行った。その結果、すべての検体においてRD-18S細胞の2代目継代時にエコーウイルスに特有のCPEが観察され、分離陽性と判定された。この分離ウイルスに国立感染症研究所より分与されたエコープール血清(EP95)を用いて中和試験を行ったところ、当該ウイルスはE30と同定された。

今年は今回の例を含め、4月後半〜5月末日までに無菌性髄膜炎患者検体からE30が17株分離されている。昨年のE30の初発が5月上旬、同時期の分離が2株であったことと比較して、今年は流行の始まりが早く分離件数も多い。これからエンテロウイルスの本格的流行時期を迎えるにあたり、今後のエコーウイルスの流行状況には注意が必要であると思われた。

新宿区保健所保健予防課  佐藤和央 岡田由美子 島 史子
東京都健康安全研究センター
微生物部ウイルス研究科  長谷川道弥 田部井由紀子 岡崎輝江 岩崎則子 保坂三継
  同部     疫学情報室 増田和貴

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