神戸市環境保健研究所の新型インフルエンザ検査対応について
        (第2報−主に6月以降の状況−)
(Vol. 30 p. 214-215: 2009年8月号)

1.状況に応じた検査体制
2009年5月15日インフルエンザA(H1N1)pdmウイルスによる新型インフルエンザ患者を報告(IASR 30: 184-185,2009)して以降、高校での集団発生を中心とした感染者数は、学校閉鎖等の対策により5月17日をピークに次第に減少した(表1)。6月11日以降は、新たな患者のほとんどが海外からの帰国者か、その濃厚接触者という状況になっている。

神戸市環境保健研究所における検査については、状況の変化に応じた体制を敷いてきた。現在までの対応は、大きくは次の3期に分類される(表2)。I〜II期では、食品・環境収去をはじめとした研究所の他の業務をすべて中止し、全所員による対応を行った(「神戸市環境保健研究所新型インフルエンザ検査対応マニュアル」におけるStage 2の対応)。特に5月21日〜6月8日は保健所衛生監視事務所からの応援を得たほか、II期では、医師会が設置した「新型インフルエンザ定点」からの検体について神戸検疫所の応援を求めた。III期では、Stage 1担当部(微生物部および企画情報部)での対応に切り替え、研究所の他の業務を再開した。特にIII期後半(6月22日以降)には、ウイルス分離、薬剤耐性遺伝子検査等を行う余力を生み出すため、PCR検査のアドホックグループ(ad hoc:「臨時の、特別な目的のための」の意)を結成した。

2.医師会と連携した早期探知システム
患者発生の報道を受けて発熱外来はすぐに満杯状態となったため、A(H1N1)pdmウイルス感染におけるWHOのseverity評価等も勘案し、厚生労働省との協議の結果、一般医療機関での受診について了解を得た。一方で、神戸市医師会との協議により、5月20日から医師会の一般医療機関における診療体制が調えられた。さらに同医師会においては、全数把握と同程度の効果を得ることを目的として、早期探知のための「新型インフルエンザ定点」が設けられた。設置当初は100医療機関であったが、6月中旬には344機関に強化された(従来のサーベイランスでは、神戸市内のインフルエンザ患者定点は48医療機関、病原体定点は11医療機関)。なお、5月25日〜6月6日の間、「新型インフルエンザ定点」からのPCR検査については、神戸市環境保健研究所の検査能力を超えていたことから、神戸検疫所の協力を得た。この医師会と連携した早期探知システムは、市内での集団発生が終息した後の散発事例、特に渡航歴のある患者とその周囲の患者の早期発見に大変有効に働き、感染拡大防止に繋がっているものと思われる。

3.アドホックグループによる検査対応
検査対応が長期化するにしたがい、通常の業務と並行して対応する必要が出てきた。検査件数が1日当たり概ね20件以下になった6月8日より、所内マニュアルに基づき、Stage 2「全所員対応」からStage 1「担当部(微生物部および企画情報部)対応」へ切り替えた。しかし、医師会新型インフルエンザ定点との連携において、1日当たり数件ではあるが、連日検査を行う状態が続いたため、ウイルス検査担当者(3名)は新型インフルエンザ検査以外の通常業務を行うことができなかった。第2波の対応に必要な病原体サーベイランスを復活させ、特に途切れていたウイルス分離、性状解析等に着手するため、新型インフルエンザPCR検査のアドホックグループを新たに結成し、対応していくこととした(6月22日)。アドホックグループは11名で構成され、1日当たり10件以内であれば、検体の処理、RNA抽出、PCRまでを輪番制で1人が担当することとしている(判定会議は管理職を含む複数で実施)。

4.ウイルス性状の確認
2007/08シーズンから、オセルタミビル耐性A/H1N1ウイルス(ソ連型)の検出報告が相次いでいるため、A(H1N1)pdmウイルスについても、薬剤感受性の確認が急がれる。6月末までに135件の陽性が検出されている中で、PCR強陽性の24検体を選び、ノイラミニダーゼ蛋白質の耐性マーカー部位(H275Y)について塩基配列を決定した。その結果、調べた24検体はすべてオセルタミビル感受性であった。

ご協力ご支援いただいた各方面に感謝申し上げます。

神戸市環境保健研究所新型インフルエンザ検査チーム

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