ウイルス分離により確認された新型インフルエンザの国内初症例について―横浜市
(Vol. 30 p. 239-241: 2009年9月号)

2009年4月にメキシコと米国カリフォルニアから報告された新型インフルエンザA/H1N1(以下AH1pdm)は、その後、世界135カ国、患者数134,503人に拡大し、816人の死亡が確認されている(WHO発表7月27日時点の世界の報告数)。6月11日には、WHOがパンデミックフェーズを6に引き上げ世界的大流行に入った。国内でも5月中旬以降、流行の拡大が全国的に認められ始め、患者数も7月24日時点で5,022人(検疫対象者含む)と拡大している。

横浜市衛生研究所では4月28日〜7月18日の期間に、AH1pdm診断検査を1,079件(陰性確認15件と再検査2件を含む)実施した。検査方法は国立感染症研究所のマニュアル2009年5月ver.1に従い、リアルタイムRT-PCR検査ではA型共通のM遺伝子およびAH1pdm HA遺伝子を、RT-PCR検査ではM遺伝子とAH1pdm HA遺伝子および季節性AH1、AH3亜型のHA遺伝子検索を行った。遺伝子検査ではAH1pdm 240件(再検査1件を含む)、季節性AH1亜型4件、季節性AH3亜型111件を検出した(図1)。

遺伝子検査陰性またはA型共通のM遺伝子のみ確認された検体について分離培養したところ、7月31日現在13株のAH1pdmが分離培養のみで同定された(表1)。このうち5月8日採取の検体から分離した症例は、横浜市で6月6日に遺伝子検査により確定した第1例目より1カ月早く、国内では一番早い分離例となったのでその詳細を報告する。

患者は28歳女性。2009年4月24日〜5月8日まで米国に旅行し、帰国後夜38.2℃の発熱のため、横浜市感染症指定医療機関を受診した。頭痛、筋肉痛、倦怠感、下痢等の症状はなく、インフルエンザワクチン接種歴は2008年12月であった。

5月8日の検査所見はインフルエンザ迅速診断キット陰性、WBC:5,600 /μl、RBC:441万 /μl、Hb:12.9 g/dl、Plt:17.9万 /μl、AST:16 IU/l、ALT:11 IU/l、LDH:163 IU/l、BUN:9.5 mg/dl、Cr:0.55 mg/dl、Na:136 mEq/l、K:4.0 mEq/l、CRP:0.5 mg/dl、Glu:99 mg/dl。総合感冒薬を処方されいったん帰宅した。翌日は解熱傾向であったが午後再受診し、再度インフルエンザ迅速検査を実施したが陰性であった。

当所では5月8日に採取した検体について遺伝子検査を実施した。リアルタイムRT-PCR検査およびRT-PCR検査でA型共通のM遺伝子、AH1pdm HA遺伝子、季節性AH1、AH3亜型のHA遺伝子検索を行ったがすべて陰性であった。分離培養検査ではMDCK細胞を用い、培養液に2%アガロースを加えたプラーク培養を行った。培養2代目にCPE陽性となり、リアルタイムRT-PCR検査でAH1pdm HA遺伝子を確認した。また、分離株はモルモット血球に対し16HA価を示し、HI試験ではAH1亜型抗血清(A/Brisbane/59/2007)やAH3亜型抗血清(A/Uruguay/716/2007)に反応しなかった。

この最初の分離株A/Yokohama(横浜)/1000/2009と他のAH1pdm分離株についてHA、NA、M遺伝子を調べた。HA遺伝子ではA/Yokohama(横浜)/1000/2009は5月までに国内外で分離された株と相同性が高く、6月以降に横浜で分離された株(諸外国からの輸入例を含む)にみられたアミノ酸置換(206番目のアミノ酸がセリン:Sからスレオニン:T)した株とは異なっていた(図2)。NA遺伝子ではオセルタミビルに対する耐性変異(H275Y)はみられず、また、M遺伝子ではアマンタジンに対する耐性変異(S31N)を持っており、これまで報告のあったAH1pdmの特徴がみられた1)。

今回、我々は、PCR検査で陰性と判定された事例から、ウイルス分離法により新型インフルエンザAH1pdmウイルスを9株も分離することに成功した。また、同様にPCR検査陰性例から季節性AH3亜型16株、B型3株が分離されている。今回の例も含め検体中のウイルス量が少ない場合、遺伝子検査では検出できなくともウイルス分離で陽性例を捕えることができることを経験し、改めてウイルス分離法の重要性を認識した。

横浜市の確定例は海外渡航歴のある人またはその接触者は74 人で全体の29%であるのに対し、国内例は178人で71%を占め、特に7月以降は集団関連事例(家族を含む)が多くなり感染の拡大がみられている(図3)。また、南半球や東南アジアはインフルエンザ流行期であり、海外からの持ち込みも持続すると思われる。今秋からの流行に備え、AH1pdmや季節性インフルエンザの流行の動向を監視するとともに、ウイルスの性状や薬剤耐性を監視するためにもウイルス分離は重要と思われる。

参考文献
1)CDC. 2008-2009 Influenza Season Week 29 ending July 25, 2009
http://www.cdc.gov/flu/weekly/pdf/External_F0929.pdf

横浜市衛生研究所
川上千春 宇宿秀三 七種美和子 百木智子 熊崎真琴 高津和弘 池淵 守 蔵田英志
横浜市健康福祉局 岩田真美 豊澤隆弘
横浜市立市民病院感染症内科 吉村幸浩 倉井華子 立川夏夫

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