福岡市保健環境研究所における新型インフルエンザ集団感染事例の検査対応とその後
(Vol. 30 p. 260-262: 2009年10月号)

1.集団感染事例に至るまでの検査対応
福岡市保健環境研究所では、2009年5月4日から新型インフルエンザの検査対応を開始した。5月19日からは、本市のサーベイランスが強化され、患者定点を含むすべてのインフルエンザ定点と基幹定点の医療機関(計52施設)において、インフルエンザ迅速診断キットでA型陽性者については、PCR検査を行うこととなり、ウイルス検査担当職員4名に応援職員4名を加えた計8名の検査体制を敷いた。5月4日以降、市内初発患者が発生した6月6日までに搬入された検体は、8検体(いずれもサーベイランス検体)であり、新型インフルエンザウイルス(以下AH1pdm)は検出されなかった(表1)。

2.集団感染事例発生時の検査対応
6月6日、午後8時40分、「本市と隣接する春日市の医療機関を受診した福岡市立A中学校の生徒が、福岡県保健環境研究所で行ったPCR検査によりAH1pdm陽性と確認された」と、福岡県より本市へ連絡が入った。翌6月7日未明〜同日夕刻までにA中学校生徒6名とA中学校と近接するB小学校生徒9名および別の小学校生徒1名の計16検体が搬入され、そのうち15検体からAH1pdmが検出された。

これ以降、搬入検体数の急増が予想されたため、ウイルス検査担当1名と応援職員1名のペアによる班編制(計4班)に変更し、緊急検査を除き、基本的には1日に3回の検査を実施することとした。さらに、6月11日からは、サーベイランスがさらに強化され、市内の全医療機関(約1,200施設)がその対象となり、インフルエンザ迅速検査A型陽性者の全例についてPCR検査を実施することとなった。

6月下旬以降は搬入される検体数も少なくなり(図1)、7月2日の感染症危機管理専門委員会による第5回福岡市新型インフルエンザ対策本部会議において、今回の集団感染事例がほぼ終息したことが確認され、7月7日にその記者会見が行われた。6月7日以降、7月6日までの期間に搬入された検体は計150検体であり、そのうち80検体(53%)からAH1pdmが検出された(表1)。迅速検査とPCR検査の結果の一致率は低かったが、これは、迅速検査キットの精度(偽陽性、偽陰性)のほかに、検体の採取部位が迅速検査とPCR検査では異なっていたこと(迅速検査は鼻腔ぬぐい液が使用されたが、PCR検査では咽頭ぬぐい液が多かった)や、迅速検査の際に採取した(ぬぐった)部位から再度採取したため、検体中のウイルス量が微量となったことが要因として推察された。

市内の全医療機関を対象とするサーベイランスでは、医師会検査センターの職員が各医療機関を巡回して検体を回収するため、搬入までに時間を要した。このため、PCR結果は原則として翌日に判明することを医療機関に通知したが、医療機関からの検査結果の問い合わせも少なくはなく、その対応に苦慮したこともあった。このような集団感染事例の発生時には、1日当たりの検査スケジュール(検査回数、検査開始時刻と結果判明時刻)を、関係機関に周知徹底することが必要と考えられた。なお、これらの検体が搬入された時刻はばらばらであり、検体数が少ない日でも1日3回の検査では対応できず、4回実施したこともあった。特に、小中学校生徒の検体については、検査結果によっては学級閉鎖や休校の措置が伴うため、緊急に検査を開始した。

3.集団発生感染事例終息後の検査対応
市内の全医療機関を対象とするサーベイランスは集団感染事例が終息した後も継続された。搬入される検体数は、集団感染事例での対応検査時よりも増加し、8月3日以降の検査件数は1週当たり80検体を超えた(図2)。8月25日、インフルエンザ迅速検査A型陽性者の大半がPCR検査陽性であり、全例にPCR検査を継続する公衆衛生学的意義が薄れたという観点から、サーベイランスは縮小され、入院事例、重症化事例および病原体定点医療機関だけを対象とすることとなった。7月7日以降8月31日まで、計643検体(発熱外来88検体、サーベイランス検体555検体)の検査を行ったが、AH1pdmは578検体(90%)から検出され(表1)、市内においては新型インフルエンザの急速な感染拡大が起こっているものと考えられた。

福岡市保健環境研究所
福岡市保健福祉局保健医療部
福岡市各区保健福祉センター

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