6月30日、A高等学校より西条保健所へ「風邪症状で11名が欠席しており、A型インフルエンザの診断を受けた生徒がいる」という内容の電話があった。調査の結果、2年生 135名と教員6名が6月23日〜26日まで北海道(62名)と関東方面(79名)にわかれて修学旅行に参加し、そのうち25日から1名、26日から2名(3名とも関東グループ)が風邪症状(発熱、咳、咽頭痛等)を呈していることが判明した。6月25日以降30日現在での有症者の状況は表1および図1のとおりである。症状はいずれも軽く、入院したものはいなかった。有症者におけるクラスや部活動等のかたよりはなく、他の学年にインフルエンザ様の症状を呈するものはいなかった。
保健所は、6月30日に3名の生徒が医療機関を受診し、インフルエンザ迅速診断検査の結果がA(+)B(−)であったことから、新型インフルエンザによる集団感染の可能性があると判断し、この3名から検体を採取した。さらに、その後、迅速診断検査においてA(+)B(−)であった生徒4名からも検体採取を行った。合計7検体についてPCR検査を当所で実施した(表2)。
検査方法は国立感染症研究所のマニュアル2009年5月ver.1に従い、リアルタイムRT-PCR法でType A/M遺伝子およびAH1pdm HA遺伝子を、RT-PCR法で同じくType A/M遺伝子とAH1pdm HA遺伝子、さらに季節性のH1 HA遺伝子、H3 HA遺伝子の検索を実施し判定した。今回の7名はいずれもリアルタイムRT-PCR法、RT-PCR法ともにType A/M遺伝子およびAH1pdm HA遺伝子陽性、RT-PCR法では季節性のH1 HA遺伝子とH3 HA遺伝子がともに陰性であり、AH1pdmによる感染が確認された。さらに、そのうちの4検体についてMDCK細胞を用いたウイルス分離を実施した。その結果、これらの検体は初代培養で接種後4日以内にCPEが認められ、培養上清を用いたリアルタイムRT-PCRでは、全例Type A/M遺伝子およびAH1pdm HA遺伝子が検出された。
PCR検査でAH1pdm陽性の報告を受けた保健所は、(1)積極的疫学調査およびまん延防止対策の実施、(2)学校と連携しての情報の共有、(3)患者および接触者に対する医療体制の強化などの対策を講じた。さらにAH1pdm陽性患者の家族に対する健康調査を7月14日まで実施した。7月5日に生徒B(表2)の1歳の妹が発熱を呈し、医療機関を受診したが、迅速診断検査の結果はA(−)B(−)であり、確認のため当所でPCR検査を実施したが陰性であった。他の生徒の家族にも咽頭痛を呈する者がいたが、発熱はなく、医療機関受診者はいなかった。A高等学校は7月2日〜7日までの6日間、2年生の学年閉鎖を実施した。なお、他の学年では7月1日以降発熱等の症状を呈した生徒6名が医療機関を受診したが、迅速診断検査ではA(−)B(−)であった。
本事例は、北海道と関東方面への修学旅行後に発生したインフルエンザ集団感染である。北海道、関東方面ともに全国からの観光客が数多く訪れるため、不特定多数の人々との接触の可能性があり、各旅行地での感染が疑われた。また、関東グループと北海道グループでは発症時期に多少のずれがあるため、修学旅行帰着後、関東グループでの感染者から北海道グループの生徒へ感染した可能性も推察される。しかし、6月25日〜27日の間に発症した関東グループ5人は迅速診断検査でA(−)B(−)あるいは検査未実施であり、PCR検査での確認もされていないことなどから感染源を特定するには至らなかった。
今回の事例において、学校は患者発生の探知後、保健所へ速やかに連絡し、早期に感染拡大防止対策を講じ、PCR検査結果判明後も、迅速に学年閉鎖措置を行った。また、保健所は学校および患者家族への細やかな指導を行い、それぞれの協力により新たな患者の発生を防止することができた。一方、当所においては、学校での事例ということもあり、早朝より検査を実施し、結果を迅速に主管課へ連絡することに努めた。
教育現場での集団感染においては、学校と保健所、そして教育委員会と県庁の主管課との連携が必須である。今回の事例は愛媛県内の学校における初めてのAH1pdmによる集団発生であったが、関係機関の円滑な連携により、患者発生を最小限にとどめることができた。
愛媛県立衛生環境研究所
青木紀子 青木里美 山下育孝 土井光徳
西条保健所
西原正一郎 星田ゆかり 河村友紀 竹之内直人