新型インフルエンザ発熱外来における臨床像
(Vol. 30 p. 266-267: 2009年10月号)

2009年5月、神戸に起こった新型インフルエンザの集団国内発生例において、当院の発熱外来の実際について、また発熱外来でみられた臨床像について検討した。

5月16日より2週間の間に当院発熱外来を受診した患者を咽頭ぬぐい液あるいは鼻汁のPCR 検査の結果に基づき新型インフルエンザ、季節性A型インフルエンザ、季節性B型インフルエンザ、インフルエンザでない、の4つに分類し、それぞれについて臨床背景、症状、所見などの項目を比較した。

解析可能な当院発熱外来受診者 688人のうち新型インフルエンザは41名(6%)、季節性A型インフルエンザは51名(7.4%)、季節性B型インフルエンザは3名(0.4%)、インフルエンザでないと診断されたものは593名(86%)であった。

各疾患臨床像の比較においては、新型インフルエンザにおいて頭痛の発生頻度が高いものの、それでも39%であり、それ以外にも他疾患と比較して特徴的と思われる症状は存在しなかった(表1)。海外で一部指摘されている下痢の頻度は高いものではなかった。季節性B型インフルエンザの年齢が若い、男性に多い、咽頭痛が認められない、などの特徴が見られたが、症例数が3例と極めて少なく、有意とは言えなかった。

考察:5月という通常季節性インフルエンザが流行しているとは認識されていない時期に季節性A型インフルエンザが新型インフルエンザ以上に多く診断されていた。発熱外来において新型インフルエンザの比率は全体の6%と低かった。新型インフルエンザを捕捉し、他の疾患などと混在せずに診療する目的で作られた発熱外来としては低いと考えられる。極端に言えば、発熱外来の待ち合い室では1人の新型インフルエンザ患者に対し15人以上の非新型インフルエンザ患者が混在していることになり、うまくトリアージできているとは考えにくい。

一方、各疾患の臨床的特徴は明確でなく、新型インフルエンザを他のインフルエンザや非インフルエンザ疾患と見分けることは困難であることが示された。この二つの事項は関連しているとも考えられ、特徴的臨床像がないことがうまくトリアージできなかったことに繋がっている可能性もあるものと考えられる。

なお、この発熱外来の分析に関しては発熱相談センターから紹介というバイアスがかかっている。つまり発熱外来は発熱相談センターから紹介されて受診するシステムであったため、当院の発熱外来にどういった患者さんが集まるかは発熱相談センターでの紹介状況に左右される。新型インフルエンザを疑う症状ということで発熱と上気道症状があげられており、体温や症状の頻度や高低に影響していると考えられ、実際には発熱がないものや、上気道症状を欠くケースは意図的に除かれていると考えられる。

発熱外来を行うためには、対象疾患が特徴的臨床像を有しているときに有効であるが、新型インフルエンザのようにそうでない場合には、対象疾患以外が多く紛れ込み、また対象患者が増大してしまう恐れがある。待ち合い室で感染を広げないためには、十分な発熱外来の数を確保する必要がある。発熱患者の中には髄膜炎のように死亡率が高い緊急の疾患が多くあり、発熱外来が込み合うことは非常に危険であることも考え合わせると、発熱外来実施時には発熱外来の数の確保が前提であると考えた。

神戸市立医療センター中央市民病院感染管理室 林 三千雄 春田恒和
神戸大学医学研究科立証検査医学 西村邦宏

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