保育園で発生した腸管出血性大腸菌(O157)集団感染事例―福岡市
(Vol. 30 p. 300- 301: 2009年11月号)

2009年7月に東保健所管内のA保育園(園児 135名、職員36名)において腸管出血性大腸菌(EHEC)O157による集団感染事例が発生したので、その概要を報告する。

2009年7月7日、市内医療機関より2歳男児からEHEC O157:H7(VT2)が検出された旨の届出が管轄保健所にあった。調査の結果、2歳男児は、市内のA保育園に通園しており、患児と同じクラスの2歳男児も7月7日15時より軟便を呈していたことが判明したことから、管轄保健所では初発園児の家族、全園児、職員および菌陽性者の家族等を対象に検便を実施した。

検便は、延べ383名(園児、職員は2回検便実施)について実施した。最終的には、園児10名(2名は医療機関で検出)、職員1名および菌陽性園児の家族3名の計14名からEHEC O157:H7(VT2)が、1名からOUT:H21(VT2)が検出された。O157陽性者のうち有症状者は3名で、その症状は軟便程度であったが、うち1名は少量の血便が確認されていた。他の菌陽性者はすべて無症状病原体保有者であった。菌陽性園児の年齢分布は1歳が5名、2歳が3名、3歳が2名で、この3歳児(2名)を除いた園児はすべて初発園児と同クラスの園児であり、菌陽性職員も同クラスの担任であった。なお、菌陽性の3歳児クラスには初発園児の姉が在籍していたが、この姉からの当該菌検出はなかった。

検査は、(1)2.5mg/l亜テルル酸カリウム加ソルビトールマッコンキー寒天培地(自家製:BD)、クロモアガーO157培地(CHROMagar)での直接分離培養(37℃、18〜20時間培養)、(2)Tryptic Soy Broth(BD)にて37℃、6時間培養後、Dynabeads anti-E.coli O157(invitrogen)によりO157を選択濃縮後、分離培養(37℃、18〜20時間培養)、および培養液中のVero毒素のスクリーニングを目的に、(3)当研究所オリジナルな検査方法であるマイトマイシンC(最終濃度100μl/l)添加CAYE培地(自家製)37℃、18時間以上浸盪培養後、Vero毒素の測定(ノバパスベロ毒素EIAキット;BIO-RAD)を行った。分離されたコロニーは生化学的性状検査、血清学的検査およびPCR法(TaKaRaキット)によるVero毒素遺伝子の型別を行い、EHEC O157:H7(VT2)と同定された。なお、1名からは上述(2)のDynabeads anti-E.coli O157による濃縮法でのみ、当該菌が検出されたが、他の本菌陽性者については、(1)〜(3)の方法による結果は一致した。また、OUT:H21(VT2)が検出された1名は、(3)のEIAキットでVero毒素が検出されたことから、菌検索を行った結果、当該菌が分離されたものであった。今回の検査から、(2)のDynabeads濃縮法と(3)の当研究所オリジナルな検査法の有用性が示された。

図1に福岡市内における2009年7月に分離されたEHECのパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターン(制限酵素Xba I)を示した。本事例で分離された当該菌の代表株についてのPFGEは同一のパターンが確認された(レーン2〜11)。

本事例は、疫学調査および検査結果より、保育園の給食等、園が提供した飲食物が原因とは考えにくいと思われた。分離された菌株の代表株におけるPFGEパターンからは、同一の感染源に由来するものと考えられ、初発園児を含む1歳児クラスを中心とした園児および家族間での人→人感染が強く推察されたが、感染源・感染経路については不明であった。保育園等における本菌集団感染事例は全国的にも人→人感染で拡大の傾向がみられ、患者発生に伴い家族内の二次感染も多く報告されている 1)。今後とも基本的な予防策としての手洗い等の衛生管理および二次感染防止の徹底的指導等が必要であると思われた。

謝辞:喫食調査および患者情報を提供していただきました東区保健福祉センターの職員の方々へ深謝いたします。

 文 献
1) IASR 30: 119-134, 2009

福岡市保健環境研究所保健科学課 尾崎延芳 財津修一 藤丸淑美 樋脇 弘

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