AH1pdm感染後、肺炎を発症した症例よりヒトメタニューモウイルス(hMPV)を検出―神戸市
(Vol. 30 p. 298-299: 2009年11月号)

第1事例: 4歳7カ月双生男児(患者A、B、基礎疾患無し)。

2009年7月9日発熱、翌10日に神戸市環境保健研究所実施のリアルタイムPCR法にて新型インフルエンザウイルスA(H1N1)pdm(以下AH1pdm)の感染が確認され、A、Bともに同日よりオセルタミビル内服を行い、翌日には解熱した。しかし、Aの咳嗽が増悪傾向であったため、13日A、Bともに市民病院に入院した。

Aは入院時、呼気性喘鳴を認め、胸部レントゲンにて肺炎像を認めた。血液検査では軽度の白血球減少(4,000/µl程度)とLDH 600 IU/l台、CPK 900 IU/l台の上昇を認め、ウイルス性肺炎として治療(輸液・気管支拡張剤の吸入)を行った。入院後は速やかに咳嗽・喘鳴が消失し、7月17日に退院した。

Bは入院時の胸部レントゲンでは肺炎像なし、血液検査では、軽度の白血球減少(4,000/µl程度)とLDH 400 IU/l台の上昇を認めた。入院翌日より再度発熱を認め、咳嗽の増悪と喘鳴が出現したため気管支拡張剤の吸入で対応した。発熱はその後3日間続き解熱。7月17日に退院となった。

2児の入院時、再度研究所にAH1pdmの検査依頼があった。その結果、2児ともにAH1pdmは陽性であるものの、10日採取検体(ウイルス分離結果陽性)よりかなりcycle threshold (Ct)値が高くなっており、ウイルス量は減少していることが推測できた (ウイルス分離結果は陰性)()。主治医より咳がひどく下気道炎(肺炎)を起こしているとの情報を得たため、ヒトメタニューモウイルス(以下hMPV)の感染を疑い、RT-PCR法を実施した。方法は病原体検出マニュアル(国立感染症研究所、平成20年7月版)を使用し、nested RT-PCR法で実施した(1stプライマー hMPV-1f/hMPV-1r、2ndプライマーhMPV-2f/hMPV-2r)。その結果、13日採取の2児の検体からhMPVが検出された。なお、RSVのRT-PCR 1) は陰性であった。7月10日採取の検体についても同様にRT-PCRを行ったところ、AからはhMPVは検出されたが、Bからは検出されなかった。BはAH1pdm感染後、AからhMPVに感染した可能性が考えられる。Aにおける肺炎の発症およびBにおける入院後の発熱、咳嗽増悪にはhMPVが関与していることが示唆された。

7月初旬よりA、Bが通園している東灘区内のC幼稚園では、発熱と気道炎症状を呈する児が複数発生し、AH1pdm感染が疑われ、A、B以外に4児のAH1pdmの検査を実施した。その結果、7月6日採取の4歳児からAH1pdmを検出したが、他の3児からは検出できなかった。その後、これらC幼稚園からの依頼検体からhMPVとRSVの検出を試みたところ、AH1pdm陰性であった3児すべてからhMPVの遺伝子が検出された。RSVに関してはすべて陰性であった()。さらに、hMPVのPCR産物を用いF遺伝子(約250塩基)の塩基配列を決定し、相同性検索を行ったところ、2007年中国で採取された検体から検出されたhMPVの塩基配列(FJ641091)と97%の相同性があった。また、同幼稚園の5児から検出された遺伝子の塩基配列は完全に一致した。C幼稚園ではAH1pdm感染とhMPV感染の患者発生が同時期にあり、Aは両方のウイルスに重感染したと考えられる。

第2事例: 13歳男児(患者D、基礎疾患は気管支喘息)。

9月14日午後から38.8℃の発熱と咳嗽・頭痛・咽頭痛があり、近医を受診した。インフルエンザ迅速検査は陰性で、上気道炎と診断され帰宅した。翌15日、目が腫れて息苦しさもあるとのことで再診、前日と比べて症状が増悪していたため居住区内の病院を紹介され入院した。インフルエンザ迅速検査陰性、胸部レントゲンおよび胸部CTにて肺炎、無気肺を認められた。その後急速に呼吸状態が悪化したため、同日県立こども病院に転院となった。入院時、体温39.0℃、インフルエンザ迅速検査はA型強陽性、呼吸状態が悪く、直ちに気管内挿管され人工呼吸管理となった。オセルタミビルを注入で投与開始した。16日、体温40.0℃まで上昇し、人工呼吸管理、吸引、タッピングなどにより無気肺は改善したが、レントゲン上で肺炎像は鮮明となった。呼吸状態は変わらなかった。16日採取検体でAH1pdmの感染が確認された。17日、体温37〜38℃。人工呼吸管理を継続した。翌18日呼吸状態の改善が確認され抜管、9月20日退院した。16日採取検体のhMPVのRT-PCRを実施したところ陽性であった(RSVは陰性)。

背 景
2009年6月中旬、神戸市北区の医療機関より、北区近隣の複数の保育園、幼稚園で急性気管支炎(咳嗽悪化)を呈する児が多く発生しているという情報を得た。医院の協力を得て、以降7月末までに提出のあった検体のうち、急性気管支炎11患者からhMPV遺伝子を検出した。

8月上旬、環境保健研究所は中央区の定点医療機関より兵庫区内のE保育所で発熱、急性気管支炎患者が複数発生しているとの情報を得た。同定点医療機関の協力を得て検体を採取し、hMPVの検査を実施した結果、同保育所3児よりhMPV遺伝子を検出した(AH1pdm陰性)。

北区11例のうち3例およびE保育所3例のF遺伝子(約250塩基)の解析を行い、C幼稚園5例を含め系統樹解析を実施した。多重整列アライメントはDDBJのCLUSTAL Wを使用し、分子系統樹の作成は近隣結合法を用い、Kimura's correction使用で行った()。その結果、北区では複数のhMPVが流行していたことが予測されたが、C幼稚園およびE保育園ではまったく同一のhMPVが流行していたことが推測された。

国内外でAH1pdm感染を確認された患者が肺炎を起こし重篤化する症例が発生している2,3)。肺炎の種類が細菌性かまたはウイルス性なのか、ウイルス性ならばAH1pdm以外のウイルスによる重感染の有無について調べていくことは今後重要になってくると考えられる。今回、AH1pdm感染時に肺炎を発症した複数症例からhMPVが検出された。hMPVがAH1pdm感染の重篤化に関与するひとつの重要因子である可能性があると考えられる。

参考文献
1) Dean D Erdman, et al ., J Clin Microbiol 41: 4298-4303, 2003
2) IASR, 30: 267-268, 2009
3) CDC, MMWR 58(27): 749-752, 2009

神戸市環境保健研究所 秋吉京子 新型インフルエンザ検査チーム
神戸市保健所 楢林成之
神戸市立医療センター中央市民病院小児科 田村卓也 春田恒和
兵庫県立こども病院 中川 卓 佐治洋介
にしむら小児科医院 西村清子
藤見医院 藤見昭代

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