獣医師届出感染症の報告状況
獣医師による届出感染症が7疾患となった2004年10月以降の各疾患の報告状況を表1に示した。2004年(10〜12月)およびそれ以前はいずれの報告もなかったが、2005年以降は,鳥インフルエンザ(H5N1)の鳥類で10例(2007年:宮崎県の養鶏3例、岡山県の養鶏1例、熊本県の野鳥1例/2008年:秋田県の野鳥1例、北海道の野鳥2例、青森県の野鳥2例、※養鶏は1箇所で複数発生しており、まとめて1例としている)、細菌性赤痢のサルで 193例(2005年:45例/2006年:45例/2007年:51例/2008年:29例/2009年:23例)、エキノコックス症の犬で9例(2005年:5例/2006年:2例/2007年:1例/2008年:1例)の報告があった(2009年11月11日時点)。
細菌性赤痢のサルの報告状況
細菌性赤痢のサルは、2005〜2009年にかけて年間約30〜50例、計193例が報告されており(2009年11月11日時点)、それらのサルから分離された赤痢菌の菌種別内訳を図1に示した。分離割合はShigella flexneri が96%(187株)と大多数を占め、その血清亜型は1b:8株、2a:35株、3a:25株、3b:32株、5:10株、6:5株、variant X:16株、variant Y:25株、未同定:31株と多様であった。それ以外の菌種は数株の分離であった(S. dysenteriae :1%、S. boydii :2%、S. sonnei :1%)。報告例は、届出獣医師が所属する施設名などの届出状況から、ほとんどはサルを輸入した業者による検疫中の検出と考えられた。輸入元の国別でみると、報告例が最も多かったのは中国の127例であり、次いでフィリピン36例、ベトナム22例、インドネシア4例、不明4例の順であった。ただし、動物検疫統計によると2005〜2007年のサルの国別輸入頭数は、中国13,030頭、フィリピン1,782頭、ベトナム3,598頭、インドネシア1,939頭であり、輸入頭数も中国が最も多い1)。また、サルの種別では、カニクイザルが178例、アカゲザルが15例であった。
サル由来感染症対策
サルは2005年7月1日以降、試験、研究および展示用以外は輸入禁止となり、また輸入できる地域は2009年11月現在、中国、フィリピン、ベトナム、インドネシア、アメリカ、ガイアナ、スリナムに限られている。さらに、輸入可能地域からの輸入に際しては、農林水産大臣が指定する施設における輸出前の係留検査や輸出国政府機関が発行する証明書が必要とされている。
細菌性赤痢のサルの報告のほとんどは、輸入検疫施設からの届出であることから、感染したサルと接触する者は検疫業務に携わる特定の少数に限られており、それらの者の感染は今のところ確認されていない。しかし、赤痢菌に感染したサルは、無症状保菌個体であることが多く、他個体のサルや人への感染源となり得ることから、ガイドライン2)の遵守等、感染拡大防止対策が非常に重要である。
参考文献等
1)動物検疫統計:動物検疫所ホームページ(http://www.maff.go.jp/aqs/tokei/toukei.html)
2)サルの細菌性赤痢対策ガイドライン:厚生労働省ホームページ(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/02.html)
国立感染症研究所感染症情報センター(担当:佐藤 弘、多田有希)