新型インフルエンザウイルスの分離状況と分離ウイルス株の性状について―広島県
(Vol. 30 p. 321-322: 2009年12月号)

広島県では、新型インフルエンザウイルスA(H1N1)pdm(以下AH1pdm)の検査は、国立感染症研究所(感染研)から示された「病原体検出マニュアルH1N1新型インフルエンザ(2009年5月 ver.1)」に従ったリアルタイムRT-PCR法(一部はコンベンショナルRT-PCR法も併用)で実施しており、リアルタイムRT-PCR法でA型共通のM遺伝子が陽性、かつAH1pdmのHA遺伝子が陽性の検体をAH1pdm陽性と判定している。本県では、2009年6月9日に県内初の患者が確認されたが、それ以降、新型インフルエンザ国内流行初期における患者確定のための検査、その後の入院・重症患者を対象とした検査、定点サーベイランス検査において、これまでに合計137名の新型インフルエンザ患者を確認している(2009年10月21日現在)。当センターでは、患者の検体については、全例をウイルス分離の対象として検査を実施しているので、ウイルス分離の状況や分離ウイルス株の性状について、その概要を報告する。

1.AH1pdmの分離状況
ウイルス分離はMDCK細胞を用い、組織培養用6穴プレートに作製したMDCK細胞1穴(直径35mm)当たりに、患者の検体(鼻咽頭ぬぐい液)を0.2ml接種し、37℃、1時間吸着操作を加えた後に、トリプシンを添加したダルベッコ変法イーグルMEM培地(トリプシン添加培地)を2ml加えて、37℃の炭酸ガスふ卵器内で静置培養している。検査の対象となったすべての患者検体についてウイルス分離を実施した結果、リアルタイムRT-PCR法でAH1pdm陽性と判定された137名のAH1pdm陽性患者の検体中、1名を除いてすべての患者検体からAH1pdmが分離されている(AH1pdm陰性と判定された検体からは、AH1pdmは分離されていない)。なお、この1名の分離陰性の検体については、リアルタイムRT-PCRのcycle threshold(Ct)値の結果から、検体中に含まれるウイルス量が極めて少なかったと推察された。

MDCK細胞におけるAH1pdmの増殖態度については、接種後2日目〜6日目でCPEが細胞全体に広がる場合が大半であった。このことから、今回のAH1pdmも従来の季節性インフルエンザウイルス同様にMDCK細胞に対して感受性が高く、細胞を用いたウイルス分離は比較的容易であると思われる。なお、発育鶏卵を用いたウイルス分離に関しては、ここ数年に流行した季節性インフルエンザ(AH1亜型やAH3亜型)では、発育鶏卵でのウイルス分離が困難なケースを経験していたが、AH1pdmについては、1例ではあるが発育鶏卵を用いたウイルス分離を行い、羊水内接種することでウイルスは分離されているので、発育鶏卵でのウイルス分離も比較的容易であるかもしれない。

2.分離AH1pdm株の性状
(1)赤血球凝集(HA)性:分離されたAH1pdm株の各種血球に対するHA性については、七面鳥≧モルモット>ニワトリの順にHA価が高かった。七面鳥血球を用いた場合の分離ウイルスのHA価は、MDCK細胞で分離初代の場合は2〜64HA価を示し(多くの株が8〜16HA)、CPEが強く出現するのに比較して、HA価は低い印象であった。しかし、HA価が低かった株(MDCK細胞培養上清)についても、MDCK細胞に継代培養することで、培養上清のHA価は8HA以上に上昇している。

(2)赤血球凝集抑制(HI)価:AH1pdm株のHI価については、感染研から分与された抗A/California/07/2009(H1N1)pdm血清を用いた成績では、137株の分離株中136株が640HI〜5,120HI価を示した。1株は320HI価であった(ホモ価は2,560HI)。

(3)培養温度の違いによる増殖態度: AH1pdm株としては、流行初期の6月に採取された検体から分離された株と、10月に採取された検体から分離された株、それに加えて2008/09シーズンに分離された季節性インフルエンザウイルスAH1亜型およびAH3亜型ウイルス株について、培養温度の違いによるウイルス増殖量の差の有無を検討した。方法は,6穴プレートに作製したMDCK細胞に、1穴当たり5 PFU/0.2mlの多段増殖となる条件で感染させ、吸着操作後にPBS(−)で5回洗浄した後、トリプシン添加培地を加えて34℃と37℃の2通りの温度で培養した。培養開始24時間ごとに4日間、培養上清の一部を採取し、その中のウイルス量(遺伝子コピー数)をリアルタイムRT-PCR法で測定した。その結果、AH1pdm株は、季節性インフルエンザウイルス株同様に、34℃と37℃の培養温度でウイルスの増殖能には違いは認められなかった()。

(4)AH1pdm薬剤耐性株サーベイランス:これまでにMDCK細胞で分離されたAH1pdm株のうち、97株についてNA遺伝子中のH275Yの変異を調べたが、いずれの株でもオセルタミビル耐性を獲得するH275Yへの変異は見つかっていない。

広島県立総合技術研究所 保健環境センター
高尾信一 島津幸枝 重本直樹 福田伸治 谷澤由枝 竹田義弘 桑山 勝 大原祥子
松尾 健 妹尾正登

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