麻疹風疹定期接種接種率調査―2008年度最終全国集計結果
(Vol. 31 p. 39-40: 2010年2月号)

2008年度より本格的に開始されている麻疹排除計画において重要な核となる「予防接種の徹底」に関連し、第1期(1歳児)、第2期(小学校就学前の1年間)に加えて、第3期として中学1年生に相当する年齢の者が、第4期として高校3年生に相当する年齢の者が、それぞれ5年間の時限措置として対象となった。

1)第1期:2008年度の最終接種率は、全国で94.3%であり、目標とする接種率である95%にはわずかに至らなかった。最も高かったのは三重県98.5%、最も低かったのは秋田県88.2%であった。95%以上を記録していたのは、47都道府県中16都道県であり(図1)、1回目の接種として最も重要と考えられる第1期の接種においては、「麻疹風疹混合ワクチンを1歳のお誕生日のプレゼントに」のキャッチフレーズの下、自治体、かかりつけ医等からの保護者に対する勧奨を徹底し、さらなる接種率の向上が必要と考えられた。

2)第2期:麻疹排除計画の初年度であり、2回接種導入3年目にあたる2008年度の全国的な接種率は91.8%であり、前年度87.9%より 3.9ポイント上昇した。最も高かったのは秋田県97.3%、最も低かったのは沖縄県88.1%であった。2回接種導入後3年目にして、95%以上の接種率を記録していたのは、秋田県、佐賀県、福井県等の9県(図1)であり、昨年度と比較して接種率が最も上昇したのは大分県12.1ポイント(2007年度79.4%→2008年度91.5%)であった。接種率の前年度比較では、すべての都道府県でプラスであったものの、上昇が最も小さかったのは、山口県 0.3ポイント(2007年度91.2%→2008年度91.5%)、次いで広島県 0.9ポイント(2007年度89.7%→2008年度90.6%)、沖縄県 1.0ポイント(2007年度87.1%→2008年度88.1%)であった。

第2期接種率向上のカギとして、就学時健診時の個別の勧奨や一日入学、あるいは体験入学時の学校からの勧奨等、学校・教育委員会からの呼びかけが非常に重要となる。就学時健診において予防接種を受けていない者には予防接種を受けるよう指導することの通知が、すでに文部科学省から発出されてはいるものの、十分に徹底されていない自治体もある。一部の自治体では、接種したことを証明するもの(接種済み証明書や母子健康手帳・予防接種手帳等のコピーなど)を、入学に際して学校に提出することを求めているところもあり、接種率向上に大きな役割を果たしている1) 。

3)第3期:導入初年度である2008年度の最終接種率は85.1%であった。第3期と第4期は昨年度3回の中間評価を実施したが、12月末の中間評価では、全国的な第3期の接種率は66.1%であり、年度末までに19ポイントの増加がみられた。47都道府県において、最も接種率が高かったのは福井県95.5%、最も低かったのは福岡県75.7%であった。95%以上を達成したのは、福井県のほか、富山県95.3%、茨城県95.1%の3県のみであった(図1)。95%以上の接種率を達成した3県を除いて、12月末から年度末までに最も接種率が上昇したのは徳島県30.0ポイント(12月末60.0%→年度末90.0%)で、最も上昇の度合いが小さかったのは青森県13.4ポイント(12月末77.7%→年度末91.1%)であった。

昨年度の麻疹対策に対する都道府県の取り組みの評価によると、2009年8月現在全国 1,807自治体において、昨年度、第3期対象者に対する学校等の場を利用した集団接種を行った自治体は438(24.2%)であり、茨城県においては、学校等の場を利用した集団での接種が44自治体中32自治体(72.7%)と最も高い割合で実施されていたことが分かっている2) 。一方で、集団の場を使用した接種を実施していなくても高い接種率を確保した自治体もあり、自治体の保健行政部門と教育関係部門の連携の下、繰り返しの勧奨や接種率を高める取り組みを、「学校における麻しん対策ガイドライン(作成:国立感染症研究所感染症情報センター、監修:文部科学省、厚生労働省)」等を有効に活用しながら、学校と一緒に実施することが重要であると考えられる。

4)第4期:昨年度の第4期の最終接種率は、4つの年齢群の中で最も低い77.3%であった。12月末評価で58.2%であったことから考えると、19.1ポイントの増加であったが、95%以上を達成した都道府県はひとつもなく(図1)、最も接種率が高かったのは山形県91.9%、最も低かったのは東京都60.7%であった。12月末から年度末までに最も接種率が上昇したのは熊本県28.3ポイント(12月末55.9%→年度末84.2%)で、90%以上を達成している3県を除き、最も上昇の度合いが小さかったのは、静岡県12.7ポイント(12月末69.4%→年度末82.1%)であった。

第4期においても第3期同様、集団の場を利用した接種を実施している自治体があったが、全国1,807自治体中170自治体(9.4%)と、第3期に比較して少なく2) 、場所も学校の他に、保健センター、保健所、医療機関等を利用していた。第4期においても第3期同様、学校におけるクラスの担任や養護教諭を通じての顔の見える接種勧奨がより効果的であると考えられた。

第1期から第4期すべてにおいて、90%以上であったのは、山形県、福井県、佐賀県の3県のみであり、第3期、第4期の結果においては、大都市圏で接種率が低い傾向にあり、人口の多い自治体における取り組みの難しさを表していると考えられた。「2012年を目標にわが国から麻疹を排除する」ことだけではなく、ワクチンで予防可能な麻疹と風疹で重症者や死亡者を出さないようにするためにも、国全体での取り組みが必要とされる今、医療従事者・公衆衛生および教育関係者は、MRワクチンを効果的に活用するのはもちろんのこと、お互いの連携を深めつつ、自分自身の立場でできることから実施し、ともに対策に臨むことが必要とされている。

 文 献
1)寺田喜平ほか,日本小児科学会雑誌 112(3): 458-462, 2008
2)厚生労働省ホームページ,第4回麻疹対策推進会議資料「2008年度都道府県における麻疹対策取り組み状況評価 第2回チェックリスト集計結果」
 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/09/s0909-9.html(2009年12月アクセス)

国立感染症研究所感染症情報センター 山本久美 多屋馨子 岡部信彦
厚生労働省健康局結核感染症課

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