2.平時の取り組み
秋田県における第2期の定期予防接種率は高い水準を維持している1) [2006(平成18)年度90.4%、2007(平成19)年度95.8%、2008(平成20)年度97.3%]。これは、市町村が未接種者に対して、就学時健診での対応や葉書、電話等により個別的な接種勧奨を徹底していることによる。
個別接種勧奨の徹底は、予防接種台帳の活用により効率化できても、なお多大な労力を要するため、市町村担当者のモチベーションの維持が重要である。秋田県の市町村担当者が麻しんに高い関心を持ち続けている理由のひとつに、昭和62〜63年に秋田県で約4,000人規模の発症、10名が死亡した麻しん大流行がある2) 。
秋田県では、当時の教訓を風化させないように、平成19年度から毎年度下半期に担当者会議や研修会を開催している。
3.流行時の取り組み
(1)未接種者の出席停止措置
平成19年12月からの秋田県北部の大館市における流行時に、大館市教育委員会が、学校保健法第12条(現、学校保健安全法第19条)により未接種者を「感染症にかかるおそれのある児童生徒」とみなして、出席停止措置を要請した。また、秋田県教育委員会は、同様の措置を秋田県北部の18高等学校に要請した。感受性者のみに働きかけるこの取り組みにより、流行地域の学校における未接種者数を短期間で皆無にした。その結果、秋田県における麻しんの流行を局地的流行に留めることに結びついた3) 。
(2)未接種者の出席停止措置を円滑に実施するために
この取り組みは「児童生徒の健康を守る」という関係者の意思表示のもとで実施すべきである。秋田県では、関係者が連携して対策を展開しながら、地域住民に情報を発信して、危機意識を共有する過程があった。当時、大館市が早期に任意接種費用に独自公費助成を導入し、これが秋田県内全25市町村に広がった。県は、保健所と衛生研究所の疫学調査や検査結果を受けて「児童生徒に発症者が集中していること」、「発症者は未接種者のみ(当時)」であることを複数回にわたって、報道発表し、緊急会議で情報発信した。また、各地域での対応の起点に秋田県医師会や小児科医の積極的な働きかけがあった。
結果、秋田県での未接種者の出席停止措置は円滑に実施することができ、1件の苦情も報告されなかった。
この対応を今後に活かすために、県は
「秋田県麻しん流行時の対応要領」(http://www.pref.akita.lg.jp/www/contents/1177935967542/files/A_measles_manual8.doc)や
「秋田県麻しん制圧記録集」4)(http://www.pref.akita.lg.jp/www/contents/1177935967542/files/AkitaMeaslesRepo.pdf)
をまとめた。
「秋田県麻しん流行時の対応要領」は、平成19年度に実施した対策を列挙したものである。麻しんの流行時に、県が情報の共有化を図るべく複数のイベントを行うことや、市町村が、生後6カ月〜12カ月未満児も含めた感受性者に任意予防接種公費負担を検討すること、教育委員会が学校保健安全法(旧学校保健法)に基づく対応を行うことが記載されている。「秋田県麻しん制圧記録集」は、要領の対応を実行するための詳細な対応実例を記載したものである。
4.関係者一体となって麻しん排除へ
秋田県では2009(平成21)年7月に県内17高等学校の協力により第4期定期対象者である高校3年生へ意識調査を実施した。そして、調査時点で対象の約半数が自身を接種対象者と認識していないことを把握した(図)。このような状況を踏まえ、秋田県医師会は医学生を講師とした高等学校での出張講義を計画するなど、関係者が対策にのりだした。
このことを受けて、秋田県は、各関係者が一体となって効果的にキャンペーンを展開すべく、2010(平成22)年から4月を「秋田県はしか排除推進月間」とする準備を進めている。県が定期接種対象期間の早期に啓発事業を組むことは、市町村の個別接種勧奨の負担軽減につながるものと考える。
秋田県では平成20年11月27日から本日(平成22年1月15日)まで1年以上、麻しんの発生が届出されていないが、継続的に関係者が連携して対策を展開し、平成24年までに麻しんを排除したい。
参考文献
1)石井 淳, IASR 29: 190-191, 2008
2)小松ら,日本小児科学会誌 94(7):1916-1921, 1990
3)高橋ら, 外来小児科 11: 329-368, 2008
4)高橋ら,「秋田県麻しん制圧記録集」, 2009
秋田県健康福祉部 滝本法明 岩間錬治 中野 惠