麻疹検査診断におけるIgM抗体検査の位置づけ
(Vol. 31 p. 44-45: 2010年2月号)

近年、わが国では予防接種率の向上に伴い、麻疹発生数は激減している。麻疹の発生が激減すると、非典型的症状を呈する修飾麻疹の増加などから、臨床症状のみによる麻疹の診断は困難なものとなり、検査診断の重要性が増してくる。診断のための検査方法として、WHOはIgM抗体検査法を推奨している。わが国の臨床現場においても、麻疹の検査診断を保険適用のあるIgM抗体検査の結果に依存している場合も少なくないと思われる。しかしながら、その結果の解釈にあたっては注意が必要である。

今回、2007年の石川県麻疹迅速把握事業に報告された134例の中から興味ある事例を紹介し、麻疹検査診断におけるIgM抗体検査の位置づけについて考えてみた。

事例1:典型的麻疹でありながら急性期IgM抗体の上昇しなかった事例
10歳男児。母親が麻疹ワクチンに不安を持っており、これまで未接種だった。県内で麻疹流行のみられた2007年5月、カタル症状を伴う高熱あり、2日後に発疹が出現した。コプリック斑も認めた。発疹出現後翌日のIgM抗体指数(EIA 法)は1.09と、陽性カットオフ値の1.21を下回っていたが、同時に行った咽頭ぬぐい液と血液のRT-PCR検査では陽性であり、麻疹と確定診断された。

事例2:急性期IgM抗体陰性だったが後日再検査で陽転した事例
25歳男性。予防接種歴は不明。2007年5月、カタル症状を伴う高熱あり、2日後に発疹が出現した。コプリック斑も認めた。発疹出現2日後のIgM抗体指数は0.68と陰性だったが、発疹出現14日後には12.11と陽転し、麻疹と確定診断された。RT-PCR検査は行われなかった。

事例3:IgM抗体が軽度陽性を呈したパルボウイルスB19感染症例
28歳女性。麻疹ワクチンは接種済み。2007年6月、カタル症状はなく関節痛や筋肉痛を伴う発熱あり、2日後に発疹が出現した。コプリック斑は認めなかった。発疹出現3日後の麻疹IgM抗体指数は1.27と軽度陽性を呈したが、同時に施行したパルボウイルスB19 IgM抗体指数(EIA法)が11.85と強陽性を示し、パルボウイルスB19感染症と診断された。RT-PCR検査は行われなかった。

事例4:IgM抗体指数4.11と陽性だったがRT-PCR検査が陰性であった事例
30歳女性。3歳時に予防接種済み。2007年5月、カタル症状を伴う発熱あり、4日後に発疹が出現した。コプリック斑は認めなかった。発疹出現後翌日のIgM抗体指数は4.11と陽性だったが、IgG抗体EIA価は3.1と、陽性カットオフ値の4.0を下回っていた。同時に行った咽頭ぬぐい液のRT-PCR検査では陰性であり、診断確定には至らなかった。ペア血清による抗体測定はなされなかった。

事例1および2は、麻疹急性期(発疹出現後3日以内)における単一血清によるIgM抗体検査の感度の低さを表わしている。図1は、RT-PCR検査陽性群の急性期IgM抗体指数をプロットしたものであるが、発疹出現後3日目まではIgM抗体陰性のものを多く認めた。即ち、この時期にIgM抗体が証明されないからといって麻疹が否定されるわけではない。

一方、事例3および4は、IgM抗体検査の特異性の低さを表わしている。図2は、RT-PCR検査陰性群の急性期IgM抗体指数をプロットしたものであるが、IgM抗体軽度陽性例が数例みられた。即ち、IgM抗体が軽度陽性であるからといって麻疹が確定診断されるわけではない。

以上のように、急性期単一血清によるIgM抗体検査を麻疹の検査診断のための標準検査法とするには、感度および特異性において問題があると思われた。また、IgM抗体検査は結果が得られるまでに数日を要し、早期の感染拡大防止に必要な迅速性という点でも問題がある。国立感染症研究所は、わが国における麻疹検査診断の標準検査法としてRT-PCR検査を推奨している(IASR 30:45-47、2009)。結論として、IgM抗体検査をRT-PCR検査の補助的役割と位置づけ、RT-PCR検査にて判断に迷う場合などにはペア血清による抗体検査を含め総合的に診断確定することが望ましいと考える。

石川はしかゼロ作戦委員会 中村英夫

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