麻疹罹患後、麻疹自体はいったん治癒して、健常な子供として成長し、その間、SSPEになる可能性があることは、全く予期されないで過ごす。そして、多くは5〜10年後に、行動や知能に急な異変が生じて、初めて、深刻な病気に罹患したことがわかる。そして、それまで元気に生活していた子供が、時々刻々と病態が悪化して、寝たきりになっていく状況は、それを見守る親にとって、その心理的な衝撃は、他人には伝え難いほど大きい。また、抜本的な治療法がないことから、病院ではなく、在宅での家族ぐるみの介護による療養となることが多いが、その甲斐もなく、結果的には死に至るのが大部分である。SSPE青空の会においても毎年、3、4名の会員が亡くなっている(表)。このようにその悲惨さは、多くの難病の中でも、トップクラスであると思われる。
発症機序の解明や、それに基づく、抜本的治療法の開発が望まれるが、患者数が日本全国でも150名程度と推定され、麻疹罹患者の100万人に10人程度と発生率も小さいことから、研究者自体も非常に少なく、研究成果も大きくは期待できないのが現状である。
しかし、表に示すようにSSPE青空の会には毎年2、3名新入会者がいることから、確実に毎年、5例程度の患者が発生していると思われる。そして、それらの家族が悲惨な生活を開始している。
ここで、麻疹が排除されたとされている欧米諸国を見ると、SSPE患者の発生がほとんどなくなっており、多くの国では患者数はゼロか数名である。原因である麻疹そのものが流行しない状況になっているのであるから、当然のことであるが、その状況が先進国でもある日本で実現できないことに対して非常に歯痒い思いを持たざるを得ない。機序が解明されなくても、また治療法の開発ができなくても、麻疹さえ排除されれば、SSPEはほぼなくなることが実証されているのである。既に、罹患してしまった患者を救うことにはならないが、新たな患者の発生は食い止めることができるのである。そして、我々のような体験をする家族を確実に無くすことができる。
麻疹の排除のためには予防接種の徹底が必要であり、2008(平成20)年度から開始された、5年間の期限付きでの3期(中1)、4期(高3)での接種による麻疹感受性のある若者をなくすための措置は、大いに期待されたが、平成20年度の接種率のデータは大きな失望感を感じるものであった。特に東京都などの都市部での高3の接種率が60%台などと、非常に残念なものであった。さらに2009(平成21)年度は新型インフルエンザの流行もあり、世間の関心はインフルエンザの予防接種に向けられ、麻疹の予防接種の徹底がどこまで行われたかは、期待できそうもない。この5年間の暫定措置の目標は、2012年の排除、すなわち95%以上の国民が予防接種を実施した状態になることであるが、今のままでは大いに危ぶまれる。
予防接種が徹底されにくい原因として、麻疹自体の恐ろしさへの認識が国民全体に不足していることも考えられるが、それ以前に、予防接種自体への行政、学校、家庭などでの受け取り方に、欧米諸国や韓国などと比べた社会的な責務感の欠如を感じる。麻疹などの感染症は、人類にとって、無くすべき病気であり、それを実行するのは、国民としての責務である。予防接種を受けなくて、自分自身が罹っても治癒できる体力、免疫力があるから問題ないというのは間違いであると言いたい。罹患した場合、自身は治癒するとしても、自身の身体というウイルスが生存できる環境を提供し、広がる媒体としての役割を担うことを認識すべきである。ウイルスを受けつけない不感受性の身体に予防接種により変えておくことは、国民全員の責務であると言いたい。それを拒否すれば、ウイルスの媒介者として間接的にSSPE患者発生の原因者になる可能性があることを認識してもらいたい。SSPEという病気は防止手段がある以上、自然災害とはいえず、人災であるともいえる。是非、予防接種を徹底するために、自治体や学校では未接種者のリストと接種証明発行などによる推進を、家庭内では「入学や海外渡航での制限などが発生するから受けておくように」、と子供への動機付けを行って欲しい。医療、学校、自治体、家庭でのすべてが連携した取り組みにより、是非、2012年の麻疹排除を実現して欲しい。我々SSPE青空の会としても、麻疹の恐ろしさ、SSPEの悲惨さを訴え、予防接種推進を啓発するための広報活動には積極的に取り組んで行きたい。そして、2020年頃にはSSPE青空の会は新会員入会がゼロとなり、解散せざるを得ない状態になっていることを望みたい。
SSPE青空の会 副会長 畑 秀二