「5歳未満児の死亡を、1990年と比較して2015年までに3分の2減少させる」という、国連ミレニアム開発目標(MDG4)進展の指標の一つとして、麻疹ワクチン接種率が用いられることが多いが、これは麻疹ワクチン未接種児が麻疹により数多く死亡していることによる。2008年、すべての国連加盟国は、「2000年と比較して2010年に麻疹死亡を90%減少させる(すなわち、733,000人から73,300人以下にする)」という合意を再確認した。WHOとユニセフは、麻疹死亡の減少を目指した急進戦略のため、麻疹による負荷の多い47の優先的な対象国を指定している。
この戦略は以下のことを含んでいる。
(1)定期接種あるいは補足的ワクチン接種活動(SIAs)を通して麻疹含有ワクチンの2回接種の高い接種率(国全体で90%以上、それぞれの地域で80%以上)を達成、維持する。
(2)検査室の支援を受けた効果的なサーベイランスを実施する。
(3)麻疹の症例に対して適切な治療を実施する。
予防接種活動:WHOとユニセフの推計によると、1歳時点の定期麻疹含有ワクチン1回(MCV1)接種率は、2008年は83%であり、2007年に比べて1%増加した。アフリカ地域、東南アジア地域ではいまだ80%未満であった。2008年、世界全体でおよそ2,270万人いると予想されるMCV1未接種の乳幼児の内訳は、インド763万人、ナイジェリア204万人、中華人民共和国110万人、コンゴ共和国84万人、パキスタン75万人、エチオピア74万人である。
サーベイランス活動:世界の麻疹報告数は、2000年の852,937人(169カ国からの報告)から2008年の278,358人(180カ国からの報告)と67%減少した。すべての地域で麻疹報告数は減少し、特に減少幅が大きかったのは、南北アメリカ地域(99.9%)、アフリカ地域(93%)であり、最も減少幅が小さかったのは東南アジア地域(3.6%)であった。しかし、2008年にはいくつかのアフリカ地域の国では大きなアウトブレイク(コンゴ共和国12,461人、エチオピア3,511人、ニジェール1,317人、ナイジェリア9,960人)が起こった。
2008年の推定死亡数:2008年、麻疹による死亡の大部分(77%)は東南アジア地域で起こった。世界の麻疹による推定死亡数は2000年の733,000(530,000〜959,000)から2008年の164,000(115,000〜222,000)に78%減少したが、2007年から2008年にかけては横ばいの傾向であった。地域別の麻疹による推定死亡数の減少率はアフリカ、東地中海、西太平洋地域において90%という2010年の目標を達成した。また、これらの国は世界の麻疹死亡数減少のそれぞれ60%、17%、4%を占めた。2008年は優先的な対象国47カ国が世界の麻疹死亡数減少の98%(160,000)を占めた。累積では、2000〜2008年に、世界でおよそ 1,270万の麻疹による死亡を防げたことになる。うち840万(66%)の死亡が定期接種によって、430万(34%)の死亡が定期接種の増加に加えSIAsの結果により防げた。
2010〜2013年の世界的な死亡数予測:2008年以降の麻疹対策活動に対する基金の減少は麻疹による死亡数に対して影響を与える懸念材料である。2つの予測が考えられた。
(1)最悪の想定での予測:2009〜2013年の間に、47の優先的な対象国では定期MCV1の接種率が2008年と変わらず、これらのどの国でもSIAsを実行せず、他のすべての国は現在の率で定期MCV1を増加させ、必要に応じて定期的に高い質のSIAsを行う。このシナリオでは年間の麻疹死亡数は反転して、結果として2010〜2013年の間に 170万人が麻疹に関連して死亡すると予測される。
(2) "現状のまま"の想定での予測:2010〜2013年の間に、47の優先的な対象国のうち46カ国でSIAsが行われ(インドは2000〜2009年と同じく行わないであろう)、定期MCV1接種率が2008年に90%以上の国では2008年と変わらず、それより低い国では毎年1%増加すると想定している。このシナリオでは、全世界の麻疹死亡数は毎年約 151,000〜 163,000で、横ばいであると予測される。
(CDC, MMWR, 58, No.47, 1321-1326, 2009)