スイスでの大規模な麻疹流行、2006〜2009年:ヨーロッパの麻疹排除に向けて
(Vol. 31 p. 58-59: 2010年2月号)

スイスでは2006年11月〜2009年8月に大規模な麻疹の流行があり、2009年9月中旬までで4,415例が報告された。長期間にわたる全国規模での流行は、Lucerne州で始まり、2007年8月(171例)、2008年3月(569例)、2009年3月(417例)にピークをもつ3つの連続した波から構成されていた。流行は全26州に及び、人口10万人当たり総罹患率は、Appenzell Innerrhoden州の最高530からValais州の最低7まで、州ごとでかなり異なっていた(全国平均58)。2007年、全国の2歳児の1回以上接種率は87%(26州の範囲:73〜94%)で、8歳児は90%、16歳の青年は94%であった。州ごとの累積罹患率は、ワクチン接種率が増加するほど低くなる傾向があった。フランス語イタリア語圏では人口10万人当たり21に対して、ドイツ語圏では74に達し、2歳児の1回以上ワクチン接種率はそれぞれ92.3%、84.7%であった。主に5〜14歳の小児が罹患し(全症例数の48%)、年齢の中央値は11歳だった。麻疹ウイルスの遺伝子型は2006年11月以前はB3が検出されていたが、2006年11月〜2009年3月に14州でD5、2008年10月〜2009年3月にドイツ語圏4州でD4が検出され、2009年3月にはマリからの輸入例に続くB3によるローザンヌ大学を中心とした集団感染があった。患者の92.9%はワクチン接種を受けておらず、4.5%は接種が不完全(1回接種)で、2回接種を受けていたのは2.1%だった。656人(15%)の患者が合併症を併発するか入院し、生来健康だった12歳の女児が麻疹脳炎で死亡した。ヨーロッパ(2007〜2008年に81例)と、世界の他の地域(流行期間中に10例)への輸出例があり、そのいくつかは大規模な集団感染につながった。

スイスでは、感染症のアウトブレイクに対する公衆衛生対応は州の管轄となっている。公衆衛生連邦事務所(FOPH)では州の対応を標準化する国のガイドラインを作成したが、麻疹の罹患率が高い州も含めいくつかの州では、まだ対策をとっていなかったり、一般的な情報を提供するだけの所がある。一方で、約200人が罹患した伝統にとらわれない教育の学校(anthroposophic school)で、ワクチン接種や麻疹罹患歴のない生徒と教師を全員21日間の自宅待機とした例や、約50人の患者が発生した大学で全学生、教員に電子メールで通知して、2週半以内に3,800人以上にMMRの臨時接種を実施し、MMR1回以上の接種率を約90%から97%に引きあげた例など、大規模な活動を実施した州もあった。

長年の不十分なワクチン接種率と2004年以降の比較的低い麻疹罹患率から、免疫のない個人が集積し、今回のアウトブレイクを増大させた。このような状況は、ワクチン接種を受ける機会が限られていることより、特定の両親が接種を受けさせないという選択をしていることによって説明できる。麻疹ワクチン接種率は母の教育レベルが高くなるにつれて低下し、外国籍の子供たちはスイスの子供より高い接種率である。特に代替医療を利用する家庭の子供たちはワクチン接種を受けないことがしばしばで、接種を受けさせない選択をする家庭の中には、伝統にとらわれない教育の学校を好む家庭がある。最近、スイスやヨーロッパの他の地域では、このような学校に麻疹が持ち込まれ蔓延する事態が観察されている。感受性のある接触者に対して学校への出席停止措置がとられたところでは、この措置の実施によりワクチン接種が促進された。

(Euro Surveill. 2009; 14(50): pii=19433)

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