これは2004年3月にWHOから出された麻疹の予防接種に関するポジションペーパー(http://www.who.int/immunization/documents/positionpapers/en/index.html)の改訂版である。
疫学:2001年には、麻疹によって、全世界で推定2,300万以上の障害調整生存年数(disability-adjusted life year)が失われた。麻疹はワクチンにより容易に予防することができ、全世界における麻疹含有ワクチン1回接種率は2007年には82%に達した。また、2000〜2007年の間に、麻疹による推定死亡数は75万から19万7千に減少したものの、医療インフラが限られた国々ではいまだ死亡および障害の主要な原因となっている。また、ワクチンが大幅に麻疹の罹患率を減少させた国では、小児のワクチン接種率をすべての地域で高く維持できないために麻疹の再流行が起きている。
麻疹ワクチンにおけるWHOの見解:WHOは、麻疹に対する感受性を有し、禁忌のないすべての小児および成人に、麻疹ワクチン接種を推奨している。国際的に流通している弱毒生ワクチンは、安全かつ効果が高く、防御作用が長期持続し、安価である。
すべての国家のワクチン接種プログラムにおいて、すべての小児に2回接種を標準化すべきである。第1回目の接種(移行免疫が消失後できるだけ早く行う接種)を予定通りに行うことが予防接種計画の最優先事項である。第2回目の接種は、予定された年齢に通常のサービスにより行うか、年齢群を定めて、周期的に実施される接種キャンペーンにより行うことが推奨され、どちらの戦略をとるかは、どちらがより高い接種率を達成できる方法なのかという点による。すべての小児に2回接種を保障するためには、1回目・2回目の接種を記録し、モニターするための投資が必要である。
麻疹の流行を防ぐためには全国で全人口の93〜95%のワクチン接種率が必要であるため、効果的な麻疹コントロールを行うためには高い接種率を達成し、それを維持していく必要がある。麻疹による死亡を減少させる目標を持つ国々では、国レベルで90%以上、各地域レベルで80%以上の接種率が必要である。また、麻疹排除達成の目標を持つ国々では、95%以上の接種率を2回接種のそれぞれにおいて、各地域レベルで達成する必要がある。2005年のWHO総会における世界的なワクチンに関する施策の展望および戦略に関する話し合いにおいて、全加盟国は2000年時点と比較して、2010年までに麻疹による死亡の90%を削減するという目標の骨子が承認された。麻疹根絶に向けての全世界共通のゴールの設定は合意されていないが、4つのWHO地域事務所(PAHO・EURO・EMRO・WPRO)では麻疹排除(すなわち、定められた地域内におけるウイルス伝播中断の実施)が採択された。アメリカ大陸地区では積極的な麻疹コントロール戦略の実施により、麻疹排除が達成されている。全世界では、世界的な麻疹負荷が不均衡にかかっている発展途上国における麻疹のコントロールの改善が最優先事項である。
(WHO, WER, 84, No.35, 349-360, 2009)