アデノウイルスレファレンス
(Vol. 31 p. 77: 2010年3月号)

アデノウイルス感染症に関するサーベイランスとして、感染症法に基づく感染症発生動向調査では5類感染症の咽頭結膜熱および流行性角結膜炎が該当する。5類感染症は、感染症の発生状況を把握・分析して一般国民や医療関係者に情報提供することにより、感染症の発生およびまん延を防止すべき感染症である。発生動向調査は英語のSurveillanceであり、WHOによると、Information for Actionとされている。対策行動(action)に結びつかない限りサーベイランスと言えない。

アデノウイルス感染症を考えるとき、発生動向をどのように把握・分析して国民や医療関係者に情報提供するべきであろうか。サーベイランスが対策に結びつくために、情報の受け手である国民と医療関係者へのアデノウイルス感染症の症状および予防法(IASR 29:95, 2008)についての知識普及が重要である。アデノウイルスは種および血清型によって引き起こす疾患の種類と重篤度が異なる(IASR 29: 93-94, 2008)ことを周知するべきである。その知識があって初めて、例えば7型流行について適切な対策がなされ得る。また、近年発見された新型アデノウイルスについては、その病態および重要性についての知識の普及と、正確な診断系の確立および流行状況の把握が早急に必要である。

昨年に新しいアデノウイルス血清型である52〜54型が認められ、そのうち53および54型が流行性角結膜炎の病原体として流行していることが明らかになりつつある。そのうち、54型については分離に長期間の培養が必要であり、分離自体が困難なことも多い。また53型については22型とヘキソンの中和決定領域で同一配列を持つので、現在アデノウイルス53/22 として扱うことを考えている。53型については、青木ら(Aoki K, et al ., J Clin Microbiol, p3259-3269, 2008)およびWalsh ら(Walsh MP, et al ., PLoS One, e5635,2009)が報告している。54型は、石古ら(Ishiko H, et al ., J Clin Microbiol, p2002-2008, 2008)によって報告されている。

これらの同定法として、2009年7月にアデノウイルスレファレンスセンター活動報告(第30回衛生微生物技術協議会)において暫定法を示した。この暫定法によっても54型が同定可能であり、同定困難な場合は行政検査として国立感染症研究所で確定検査を行っている。現在、より簡便に53および54型アデノウイルスを同定できるLAMP法をほぼ開発したので、各地区レファレンスセンター(表1)を通じて試薬を配布して評価する予定である。

国立感染症研究所感染症情報センター 藤本嗣人 岡部信彦

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