2010年1月5日にUlm大学病院より地方衛生局へ、Legionella pneumophila 血清群1による複数の市中肺炎患者が入院したことが届けられた。1月22日の時点で死亡例5を含む65症例が調査中である。少数例を除き全患者がドイツ南西部にあるUlmあるいはNeu-Ulmに住んでいるか、そこで働いていた。すべてドイツ人で27〜96歳(中央値67歳)であった(図)。1月22日までに同定された患者のほとんどが入院した(61人)。その入院患者(不可能なら患者家族)全員に曝露源等の聞き取り調査が行われ、40例は2009年12月の最後の週に発病していた。大学病院に入院した患者は2例を除き、すべて基礎疾患があった。
大学病院に入院した41例のうち、35例で発熱、30例で咳嗽、11例で腹痛あるいは下痢、27例で中枢神経症状(錯乱、傾眠、意識障害、失神)が認められた。患者はすべて胸部X線写真で浸潤を認め、標準的な抗菌薬治療(マクロライド、あるいはフルオロキノロンが少なくとも14日間投与)がなされた。4例は人工呼吸器が必要であった。4例は入院後数時間〜8日で死亡した(うち2例は人工呼吸器をつけ大学病院で治療を受けていた)。その他の大多数の患者は治療により急速に回復した。1月22日までに退院した患者の入院日数の中央値は 9.9日(4〜16日の範囲)であった。
症例定義は欧州レジオネラ感染専門家会議に従った。全例が尿中抗原陽性か培養陽性により確定診断された。患者のほとんどの微生物学的検査はUlm大学病院の医微生物学衛生学研究所でなされた。臨床的にレジオネラ肺炎が疑われた患者には、L. pneumophila 血清群1を検出するイムノクロマト法(Inverness Medical)による迅速尿検査がなされた。結果は酵素免疫法(Biotest)で再度試験され確認された。喀痰その他の呼吸器検体はBCYE培地で培養された。レジオネラ様のコロニーはOxoid のラテックス凝集法で血清型別された。呼吸器検体に対しては、Magna pure system(Roche)でDNAが抽出され、mip遺伝子を標的としたリアルタイムLightCycler PCRがなされた。
微生物学検査のなされたすべての患者は尿中抗原陽性、10例で呼吸器検体がL. pneumophila についてPCR陽性であった。患者分離株4株はモノクローナル抗体(MAb)型がKnoxville(MAb 3-1で認識される抗原決定基を持つ)であった。16S rRNA遺伝子の塩基配列決定により、3株はL. pneumophila と99%の相同性を示した。これまでのところ、1株の遺伝子型が決定されST62であった。
疫学および環境調査は、Baden-WurttembergおよびBavariaの州衛生局の支援を受け、UlmとNeu-Ulmの地方当局によりなされた。患者の家庭設備および両市区域の湿式冷却塔由来の環境分離株と、患者分離株を比較して感染源の調査が進行中である。聞き取り調査により、公共施設、ホテル、スポーツ施設等の給水設備については共通の曝露源はなかった。UlmあるいはNeu-Ulmに住んでいるか、そこで働いているか、訪問したかが共通していた。
本事例はドイツで最大のレジオネラ肺炎の市中集団感染となった。本事例を通じて、微生物学的検査による迅速な臨床診断、および衛生当局の迅速な関与が、集団感染の検知と管理に重要な段階であると確認された。衛生当局の関与は、感染源を特定するための調査の開始、住民への問題の周知、すべての関係者間の連絡を最適化するのに必要であった。これまでのところ、湿式冷却塔が感染源として疑われている。レジオネラ肺炎の集団感染は、暖かい季節に限らないということが本事例により実感された。集団感染は1月13日の入院患者を最後の症例として終息した。この集団感染に関連すると思われる他国からの症例があれば連絡されたい。
(Euro Surveill. 2010;15(4):pii=19472)