インフルエンザ菌b型莢膜株(Hib)は、主として生後4カ月以降の乳児の髄膜炎の原因菌として恐れられており、それを防ぐため、海外では、Hibワクチンが1980年代より数種類開発され実用化されてきた。Hibワクチンの抗原は、菌の細胞表層に存在するポリリボシルリビトールリン酸(PRP)と呼ばれる多糖体である。1985年頃に開発された初期のHibワクチンはPRPのみを成分とするポリサッカライドワクチンであり、生後24カ月以上の子供に接種が承認されたが、PRP のみでは免疫原性が弱く、ワクチン効果が弱かった。そこで、ワクチン効果を高めるために、キャリア蛋白との結合型ワクチン(conjugate vaccine )として引き続き改良が進められてきた。キャリア蛋白の例としては、破傷風毒素のトキソイド(T)、ジフテリア毒素のトキソイド(D)、ジフテリア毒素のアミノ酸の一部を置き換えて無毒化したジフテリア毒素(CRM197)、B群髄膜炎菌の外膜蛋白(OMP)などがある。これらのキャリア蛋白とPRPを化学的に結合させることにより、PRP-Tや、PRP-OMPなどでは、ワクチン接種によるPRPに対する抗体レベルの上昇効果を高めることに成功し、複数回の接種によるブースター効果も充分に得られ、最終的には、生後2カ月の乳児に接種しても必要な免疫効果が期待される結合型Hibワクチンとして実用化された。さらに、百日咳/ジフテリア/破傷風混合ワクチン(DPT)やB型肝炎ワクチン、不活化ポリオワクチン(IPV)などと混合した各種の多価混合ワクチン(combination vaccine)が海外で開発、実用化されている。
インフルエンザ菌は、グラム陰性桿菌であり、細菌外膜に含まれる内毒素(エンドトキシン)であるリポ多糖体を完全には除去できないという特長があり、この点が、同様のポリサッカライドワクチンである肺炎球菌ワクチンとの大きな相違点である。2008年の12月に、国内での販売が開始されたHibワクチンについては、エンドトキシンの含量が極力低い値となるものが供給されている。さらに、現在、輸入されているHibワクチンは、破傷風トキソイドとの結合型ワクチン(PRP-T )であるが、同時期に接種されるDPT ワクチンの破傷風トキソイド成分とともに、破傷風毒素に対する免疫効果が必要以上に増強されることで、何らかの副反応などが出現する可能性も懸念されており、その点については、市販後の副反応調査などにより監視が適宜進められている。しかし、販売開始後1年以上が経過し、既に数十万人の乳児に接種が実施されたが、本ワクチンが原因と思われる重篤な副反応の発生は、幸いなことにこれまでには報告されていない。
輸入されたHibワクチンについては、市販される前に、国立感染症研究所で、生物学的製剤基準や検定基準に則り、エンドトキシン試験や多糖含量試験などの必要な試験や検査が「国家検定」として実施され、「合格」の判定が得られたロットについて、順次、医療機関に供給されている。しかし、現在、承認済みの輸入Hibワクチン(PRP-T)は一社のみであり、生産設備の限界などにより、必要な量が十分供給されていないという問題については、2011年までには、解決される方向で製造業者の努力が続けられている。
国立感染症研究所細菌第二部 荒川宜親
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