鹿児島県における小児インフルエンザ菌髄膜炎の現況とHibワクチン安全性調査
(Vol. 31 p. 102-103: 2010年4月号)

1.はじめに
インフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンの有効性を検証するには、導入前後の正確な疫学的調査が重要である。現在全国で行われている感染症発生動向調査では、細菌性髄膜炎は基幹定点からの報告であり、全数把握されていない。鹿児島県における小児細菌性髄膜炎の現状を明らかにするために、県内の小児科医の協力のもと全数調査を行った。また、ワクチンの普及には、有効性とともに有害事象についての情報も正確に提供してゆく必要がある。私たちは、鹿児島県の接種医の協力でHibワクチンの安全性に関する前方視的調査を進めており、その結果も紹介する。

2.鹿児島県における小児インフルエンザ菌(Hi)髄膜炎の現況
2001〜2006年は、小児科入院施設を有する18病院にアンケートを行い(回収率100%)、15歳未満の細菌性髄膜炎症例を後方視的に調査した。2007〜2009年は、県小児科医メーリングリストを利用して、患者入院時にすぐに報告してもらう体制をとり、前方視的に症例を把握した。報告漏れを防ぐため、小児科入院施設のある県内18病院に対して、定期的に患者の有無を確認した。菌株は国立感染症研究所において、血清型や薬剤感受性等を解析した。本研究は、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科疫学研究倫理委員会で承認され、2007年以後は厚生労働科学研究費補助金「ワクチンの有用性向上のためのエビデンスおよび方策に関する研究」(神谷齊班)の一部として行った。

全症例数は141人、そのうちHi髄膜炎症例数は80人(57%)を占め、年平均8.9人であった。患者数の推移を図1に示す。2004年までは漸増傾向がみられ、その後は年10人前後で一定していた。Hibワクチン接種が開始された2009年の症例数は11人と変化はなかった。年齢中央値は12カ月、1歳未満が37例(46%)を占め、全例5歳以下であった。2007〜2009年3年間の5歳未満Hi髄膜炎症例数は年平均10人で、5歳未満人口10万人当たり罹患率は13.3であった(2008年における本県の5歳未満人口75,168人)。莢膜型別は、検討できた25株すべてがb型であり、薬剤感受性は、69株中BLNAR(β-ラクタマーゼ陰性アンピシリン耐性株)が24株(35%)、β-ラクタマーゼ陽性株が4株(5.7%)であった。Hi髄膜炎の転帰は、後遺症や合併症をきたした症例が16例(20%)、死亡は2例(2.5%)であった。

1997〜1998年に実施された6県の調査によるHi髄膜炎罹患率は、5歳未満人口10万人当たり8.6と報告されている(加藤達夫他, 小児感染免疫 10: 209-214, 1998)。2007〜2009年の1道9県における全数サーベイランスでは、他県では4.9〜 8.7の範囲であったのに対して、本県は13.3と高かった(同班会議2010年2月11日)。

3.Hibワクチンの安全性に関する前方視的調査
Hibワクチンは、海外においてすでに安全性が示されているが、本邦では市販後調査以外の安全性調査はまだ報告されていない。県内の協力医療機関29施設において、被接種児の保護者に接種医師が調査内容を説明し、文書で同意の得られた者を対象とした。調査対象の健康被害項目を表1に示す。観察期間を2週間とし、接種医療機関は観察期間後に健康被害の有無を保護者に電話等で確認することとした。

対象接種例数は4,541。内訳は初回接種2,473、2回目1,246、3回目775、4回目47。接種時の月齢中央値は8カ月(2カ月〜74カ月)、男/女比1.03であった。同時接種1,910(42%)(DPT38%)。有害事象は32例(0.7%)に見られ、4,509例(99%)は異常を認めなかった。有害事象の頻度は表1のとおりであり、全例後遺症なく軽快した。本研究では現在までのところ重篤な健康被害や後遺症をきたした症例は認められず、安全に接種が進んでいる。

4.接種率と今後の展望
鹿児島市は、2008(平成20)年に宮崎市郡とともに全国にさきがけてHibワクチン費用の公費負担を決定し、本県ではさらに伊佐市、曽於市でも公的補助が行われている。鹿児島市における平成20年度新規対象者の公的補助利用率は60.4%[2009(平成21)年12月末現在の鹿児島市保健所提供データ]であり、任意接種としては高い値を示しており、公的補助があれば接種希望は多いことがうかがえる。残念ながらワクチンの供給不足のために、平成21年度対象者では利用率19.3%にとどまっている。鹿児島県全体でのワクチン出荷数から推定した接種率は、2010年1月現在で乳児35%、5歳未満児で11%程度である。そのため全数調査では県全体での患者数の減少傾向はまだみられていない。今後も、正確な全数把握と原因菌の型別などのサーベイランスやワクチン安全性調査を継続しつつ、接種率向上に努力したい。多くの市町村での費用の公的補助さらには早期の定期接種化が強く望まれる。

鹿児島大学病院小児科 西 順一郎 徳田浩一

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