ヒトにおける鳥インフルエンザA(H5N1)−エジプトからの教訓
(Vol. 31 p. 114-115: 2010年4月号)

エジプトでは2006年2月17日に高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)が家禽から発見されて以来、流行を続けている。ヒトでは2006年3月17日〜2009年12月30日までに、死亡27例を含む90症例が報告されている。これは、インドネシア、ベトナムに続く世界3位の症例報告数である。ここでは、2006年3月20日〜2009年8月31日の間にエジプトから世界保健機関(WHO)へ報告され、WHOのWebページで公開された85例の検査室確定症例について、その公開情報を用いて疫学的検討を行ったので報告する。

発生年ごとの症例数は、2006年18人、2007年25人、2008年8人、2009年34人であった。症例の年齢中央値は6歳(範囲:12カ月〜75歳)、死亡例では25歳(4〜75歳)であった。男女別の年齢中央値は、女性:15歳(14カ月〜75歳)、男性4歳(12カ月〜32歳)であった。女性の年齢分布が男性に比べ広かったのは、家禽への曝露が最も重要な感染の危険因子と考えられることから、女性のほうが家禽に関係した活動に従事していたからかもしれない。男女比は 0.6(男性32、女性53)であったが、年齢群によって男女比は統計学的に有意に異なっていた[<10歳 1.1、10〜19歳 0.3、30〜39歳 0.2、40〜49歳0(症例無し)、50歳以上0(全例が女性)]。

発症から入院までの期間の中央値は2日(12時間〜11日)であった。回復した症例の中央値が1日(12時間〜5日)であったのに対し、死亡例では6日(2〜11日)であった。年齢群別では、10〜19歳の群の中央値が1日(12時間〜8日)であったのに対し、20歳以上では4日(12時間〜11日)であった。発病から死亡までの時間の中央値は9日(5〜30日)、入院から死亡までの時間の中央値は4日(1〜25日)であった。

全体の致死率は32%(27/85)で、インドネシアやベトナム等より低い。女性の致死率45%(24/53)は男性9%(3/32)に比べ非常に高かったが、その理由は不明である。年齢群ごとの致死率は、10歳未満4%(2/49)、10〜19歳61%(8/13)、20〜29歳78%(7/9)、30〜39歳67%(8/12)、40〜49歳症例無し、50歳以上100%(2/2)であった。特に20〜39歳の女性においての致死率は高く71%(15/21)であった。

3例を除き、すべての症例が感染した家禽および家禽製品、あるいは感染鳥の食肉処理による曝露を受けていた。鳥への曝露の度合いと死亡との関係は不明である。

アフリカの大部分では年齢が高くなるにつれ病院にかかる頻度が低くなることが知られている上に、季節性インフルエンザのような命にかかわらないような病気は自宅療養すると思われるため、過小報告されていると考えられる。エジプトにおける2009年の症例数の急増に加え、中国やベトナムでは、家禽における強力な鳥インフルエンザ対策の実施にもかかわらずヒトへの感染が再発生しており、このウイルスがパンデミックになる潜在能力は依然明らかである。エジプトでは感染した家禽への曝露が症例の唯一の共通点であり、ヒトにおける鳥インフルエンザA(H5N1)の拡大の重要な危険因子である。

(Euro Surveill. 2010; 15 (4) pii=19473)

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