市内の保育施設で見られたSalmonella Poona散発事例について−浜松市
(Vol. 31 p. 105-107: 2010年4月号)

はじめにSalmonella Poonaは、リクガメやイグアナなどの爬虫類から高率に検出され、ペット用カメに由来するサルモネラ症(turtle-associated salmonellosis、以下TAS)の原因菌として、しばしば幼児に重篤な症状を示すことが知られている。このたび浜松市内の複数の保育施設で同菌による散発感染事例を経験したので、その概要を報告する。

事件の概要:2009年6月30日、浜松市内の病院より院内のA保育園に通う園児3名が下痢症状を訴え、検査の結果、サルモネラ属菌が検出されたとの連絡があった。浜松市保健所による調査の結果、検出されているサルモネラ菌はすべてO13群であり、A保育園に昼食を納入している給食施設が同様に取り引きのある他の保育園等2施設でもサルモネラO13群が検出されている患者がいることから、当初食中毒を疑い、給食施設の調査および食品・施設ふきとり等についてのサルモネラ属菌検査を実施したが、すべて陰性であった。その後、A保育園ではリクガメを飼育していることが判明し、TASを疑い、飼育ガメのふきとり検体等が搬入されたが、いずれからもサルモネラ属菌は検出されなかった。その後、A保育園とまったく接触のない保育施設からも、サルモネラO13群が検出された患者の発生があった。

細菌検査:病院から搬入されたサルモネラO13群菌株9名分10検体、患者同居家族便24検体、給食施設における食品24検体、施設ふきとり19検体、従業員便17検体および厨房排水1検体、A保育園飼育カメのふきとり2検体、飼育水槽内敷材1検体、カメの餌1検体および水槽洗浄水1検体、計100検体について、サルモネラ属菌の検出・同定を行った。

薬剤感受性試験およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE):検出された菌株は、アンピシリン等12薬剤についての感受性試験、および制限酵素Bln IおよびXba Iを用いたPFGEを実施した。

成績:搬入された検体のうち、菌株以外の検体からはサルモネラ属菌は検出されなかった。菌株10株は、生化学的性状からサルモネラ属菌であることが確認されたが、血清型はすべて[O13;z;1,6]であったため、国立感染症研究所に血清型別を依頼したところ、すべてSalmonella Poonaであった。これら10株について薬剤感受性試験を行ったところ、すべての株で薬剤感受性が一致し、テトラサイクリンおよびエリスロマイシンに対し耐性、ストレプトマイシンに対し中間、アンピシリン、カナマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、ナリジクス酸、ホスホマイシン、シプロフロキサシン、ST合剤およびセフォタキシムに対しては感受性であった。また、制限酵素Bln IおよびXba Iを用いたPFGEでは、両制限酵素ともすべての株の泳動パターンが一致した()。

考察:近年、ペットブームの加熱により、世界各地からさまざまな野生動物が国内に輸入され、家庭内で安易に飼育される傾向がある。なかでもカメは、飼育が容易で性格がおとなしいこともあり、幼児がいる家庭でも飼育されることが多い。財務省貿易統計によると、カメ類は年間約40万頭が輸入されており、そのほとんどが米国産である 1)。一方で、これらペット用爬虫類はサルモネラ属菌を高率に保菌していることが知られており、2006〜2008年度厚生労働科学研究事業において、市販のミシシッピアカミミガメ(通称ミドリガメ)のサルモネラ保菌調査を実施した結果、全個体の83%からサルモネラ属菌が検出されている 2)。また、日本のカメ類の最大輸入国である米国では、1970年代の初めに小さなペット用カメが子供のサルモネラ感染症の主たる感染源となったことから、1975年には甲羅長4インチ(約10cm)未満のカメの米国内での販売を法律で禁止している。以上のことから、輸入されたカメをはじめとする爬虫類からサルモネラ属菌に感染する危険性はかなり高いと思われる。事実、ミドリガメやイグアナが感染源となった小児重症サルモネラ症の国内発症事例が報告されている 3,4)。

今回の浜松市における事例では、当初市内A保育園の園児のみの集団発生と思われたが、ほぼ同時期に他の3施設からも4名の患者が報告され、計9名の散発事例となった。A保育園では種類は特定できなかったがリクガメを飼育しており、感染源としてこのカメが疑われたが、カメ周辺からS . Poonaは検出されなかった。また、近くの公園で園外保育を行っていたが、感染源の特定には至らなかった。さらに、当該菌が検出された他の保育施設についても、A保育園とは接触がなく、感染源は不明であった。しかし、患者個々の家庭におけるペットの飼育状況等の調査は行っておらず、当該菌が爬虫類から検出されることが多いことから、TAS等の爬虫類由来サルモネラ症は否定できなかった。また、検出された菌の生化学的・遺伝学的性状が一致したことから、感染源も同一である可能性も疑われた。

患者はすべて8カ月〜3歳の幼児で、うち3名は血液からS . Poonaが検出され、また他の1名は39.8℃の発熱から熱性痙攣を呈し、救急搬送されるなど重篤な症状となる患者が多く()、改めて小児におけるサルモネラ感染症の危険性を認識させられた。このことから、カメ等爬虫類の飼育に関するさらなる注意喚起が必要であると思われた。

また、今回検出されたS . Poonaは、2006年新潟県において発生した感染事例 5)から検出された当該菌と比較して、テトラサイクリン、エリスロマイシンおよびストレプトマイシンに耐性が認められた。したがって、今後検出される当該菌における多剤耐性化にも注意していく必要性を感じた。

 文 献
1)財務省貿易統計, 動物種別輸入状況, 2006-2009
2)黒木俊郎, 他, IASR 30: 212-213, 2009
3)船越康智, 他, IASR 27: 71-72, 2006
4)依田清江, 他, IASR 26: 344-345, 2005
5)西脇京子, 他, IASR 27: 203-204, 2006

浜松市保健環境研究所
土屋祐司 秦 なな 加藤和子 山本安子 小泉偉左夫 白畑裕正

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