イヌ・ネコの咬傷感染によるCapnocytophaga canimorsus 敗血症の4症例
(Vol. 31 p. 109-110: 2010年4月号)

Capnocytophaga canimorsus はイヌやネコの口腔内常在菌であるが、稀に咬傷による敗血症例が報告されている。我々は2007年10月からの10カ月間にC. canimorsus による敗血症を4例経験したので報告する。

症例1:59歳、女性
主訴:腹痛、頭痛
既往歴:SLE
現病歴:2007年10月7日飼い猫に右前腕、左下腿部を引っ掻かれ受傷するが放置していた。10日朝より嘔吐、腹痛、下痢が出現し、同日夕刻には全身ショック状態で当院に救急搬送された。救急受診時の検査は WBC 7.6×103/μl、CRP 16.5mg/dl、Plt 6.2×104 /μl、Ddimer 4.1μg/mlと炎症反応とDICを認めた。抗菌薬はmeropenem(MEPM)0.5gが投与されたが、状態の改善はみられず、翌朝死亡した。

症例2:70歳、男性
主訴:左手背部発赤・腫脹、発熱
既往歴:胃癌
現病歴:2008年7月13日飼い犬に左手を咬まれ受傷するが放置していた。15日昼頃より発赤・腫脹が出現し、同日夕刻には38℃台の発熱が出現したため、当院救急外来受診をした。受診時の検査はWBC 11.7×103/μl、CRP 0.7mg/dl、Plt 15.5×104/μl、Ddimer 0.3μg/mlで、全身状態良好なためsulbactam/ampicillin(S/A)3gが投与され帰宅した。翌朝当院形成外科を受診し、sultamicillin(SBTPC)が処方された。21日の受診時には発赤・腫脹も消失し、軽快した。

症例3:70歳、男性
主訴:敗血性ショック
既往歴:前立腺肥大症、高血圧
現病歴:2008年7月14日のら猫に右前腕を引っ掻かれ受傷するが放置していた。16日より39℃台の発熱が持続し翌日未明には大量の下痢が出現したため、近医を受診したがショック状態となり他院へ搬送となった。搬送先の病院でSeptic Shockと診断されカテコラミン、抗菌薬治療するが血圧不安定で当院救急外来転送となった。救急受診時の検査はWBC 0.4×103/μl、CRP 9.7mg/dl、Plt 4.8×104/μl、Ddimer 14.5μg/mlで、MEPM 2g、ciprofloxacin(CPFX)300mgが投与されたが、状態が不安定なまま改善せず、翌朝死亡した。

症例4:71歳、男性
主訴:腹痛
既往歴:C型肝炎
現病歴:2008年7月18日飼い猫に右手を咬まれ受傷するが放置していた。24日より腹痛が出現し、他院で便秘と診断されるが腹痛持続のため当院救急外来受診した。救急受診時の検査はWBC 11.0×103/μl、CRP 17.5mg/dl、Plt 0.4×104/μl、Ddimer 14.2g/mlと炎症反応とDICを認め、ショック状態で急性腹症を疑い緊急手術となったが病変は見当たらなかった。抗菌薬はMEPM 1gが投与され、意識障害、多臓器不全、DICの治療を継続するも不安定な状態が続いたが、2008年10月15日に軽快退院となった。

細菌学的検査:いずれの症例も来院時に血液培養が実施された。好気ボトルはBACT/ALERT FA、嫌気ボトルはBACT/ALERT FN (シスメックス)を使用した。すでに抗菌薬が投与されていた1症例を除き、両ボトルとも2日目に陽性化し、培養液のグラム染色で、糸状のグラム陰性桿菌が確認された。分離培養はヒツジ血液寒天培地、チョコレート寒天培地(日本BD)を用いて37℃、5%CO2環境下で行った。2日目にカタラーゼ陽性、オキシダーゼ陽性の微小集落を認め、4〜5日目にはスムースな凸型集落となり、一部で辺縁が不規則で培地表面上に広がった集落も確認された。分離菌はID testHN-20(日水製薬)でC. canimorsus (プロファイルNo. 301001、同定確率 100%)と同定され、岐阜大学(大学院医学系研究科・大楠清文先生)において16S rRNA遺伝子塩基配列の系統解析によりC. canimorsus と確認された。薬剤感受性試験はセンシディスク(日本BD)を用い、チョコレート寒天培地で37℃、4日間CO2培養を行った。判定は便宜的にCLSI M100-S18のHaemophilus 属の基準に準じて行った結果、3株ともペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、フルオロキノロン系抗菌薬には感性であったが、アミノグリコシド系抗菌薬には耐性を示した。

考 察:本邦では血液培養の頻度が欧米と比べて少なく、本菌による敗血症が見逃されている可能性が高いと報告されている 1)。当院の血液培養依頼件数は2006年7,189件、2007年8,481件、2008年10,077件と年々増加しており、血液培養の意識の向上が本菌の検出につながったと考えられた。本菌による感染者は担癌患者や易感染者に多く、死亡率も33%(10/30例)と報告されている 2)が、基礎疾患のない健常人であっても発症することが報告されている 3)。受傷後の処置や初期治療開始時期が、転帰に関与すると考えられ、イヌ・ネコによる咬傷・掻傷であっても、早期に医療機関を受診するように啓発することが重要であると考えられる。

 参考文献
1)菊池一美,他, 日本臨床微生物学雑誌 15: 9-14, 2005
2)Janda JM, et al ., Emerg Infect Dis 12: 340-342, 2006
3) Le Moal G, et al ., Clin Infect Dis 36: e42-e46, 2003

神戸市立医療センター中央市民病院
臨床検査技術部
竹川啓史 江藤正明 崎園賢治 野上美由紀
小谷陽子 水谷文子 富永悦二 三木寛二

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